君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「澪音は結局、かぐや姫が弥太郎さんのものなのが苦しいだけなんですよ。

だから、身代わりにしてる私が弥太郎さんと話すのが気に入らないんでしょう?」


「柚葉、さっきから話が見えない。

かぐやの身代わりってどういうこどだ」


「私、知ってるんですよ。

澪音がかぐや姫を特別に思ってること。

でも、澪音は優しいから……弥太郎さんとかぐや姫の仲を割いて婚約することなんか、出来なかった。


だから、後腐れなく恋人を演じられる私が必要だったんですよね」


「それは違う!

違うぞ、柚葉は何も分かってない。今はゆっくり説明する時間が無いけど、後できちんと話すから」


「別に良いです……何も言ってくれなくても私は私の仕事をしますから。

でも、婚約破棄のための恋人代行はできても、かぐや姫の身代わりはもうしません。

澪音の優しさも、嫉妬も、ちゃんとかぐや姫に伝えてください」


澪音の腕を振り払って、走って浴室まで逃げた。そうしないと、泣いてるところを澪音に見られてしまうから。


扉を閉めて、鍵をかけて、ひとりになると自動的に涙が溢れてくる。


「澪音のばか

あなたの失恋に付き合ってるせいで、私は全然気持ちを吹っ切れなくなってるんだから」


午後のバイトまではまだ時間があったので、湯船で気の済むまで涙を流すことにした。

今日は閉店までの長時間のシフトだ。自分を元気付ける意味をこめて、普段はしないのに丁寧に髪を巻いて、丹念にメイクして出掛けた。
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