君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
目の前で扉を閉められて、カチャリと鍵のかかる音がした。


『朝まで、この部屋には帰らないで』


って、つまり澪音とかぐや姫は二人きりで夜を過ごすということだよね。


「はは……、良かったですね、澪音」


乾いた声を漏らすと、喉の奥がキュッと締まって痛くなった。帰るなと言われても澪音の部屋以外に眠れる場所を知らないので、当てもなくお屋敷をフラフラとさまよう。


そのうちに、いつもは食堂として使っているサンルームにたどり着いた。椅子に腰かけて、窓に浮かぶ月を眺めながら今日二度目の大泣きをする。


これで良かったんだ。何度もそう自分に言い聞かせても、胸の痛みは増す一方で涙の止め方もわからない。


澪音だって、何もこんなに急でなくてもいいのに。昼に私がかぐや姫の身代わりをしないと伝えたら、その夜にこれなんだから。手が早いにもほどがある。



「でも、実際あの二人はお似合いだったな……」


月のお姫様と、同じく月の光のように柔らかな雰囲気の澪音。澪音の肩に乗せられた華奢な腕は白く眩しくて、女性の私から見ても妖艶な魅力に満ちていた。絵になる二人とはああいう人たちのことを言うんだ。


私はもともと体調が良くなかったこともあり、泣きながらその場でうとうとと意識を手放した。どうせ寝る場所も無いのだし、これはこれでいいや……。



* * *


額にひんやりと心地よい冷たさを感じて、目を覚ます。


気が付くと、大きなフカフカのベッドに寝かされていた。濃紺のベッドリネンはさらっとしたシルクで気持ち良い。白が基調とされている澪音の部屋のベッドとも違う。ここはどこだろう……
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