君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
弥太郎さんがベッドサイドの扉を開けると鏡があり、そこに映っていた私はあり得ないほど酷い顔をしていた。


強めのアイメイクをしたまま大泣きして寝てしまったから、目の回りは真っ黒。さらに瞼も腫れていた。髪を縛っていたので、ぐちゃっと乱れて余計に酷いことになっている。


『行き倒れのパンダを保護したまでだ。

この家に生息しているとは知らなかった』


携帯の画面を使って見せられる、普段通り意地悪な弥太郎さんの言葉。さっきからずっと何も話していなかったのに最初に伝えられた内容がこれとは、一体何を考えてるんだ。


「もうっ! 顔のこと最初に教えてくださいよー!

洗ってきますっ」


立ち上がろうとすると、肩を貸してくれた。部屋の外に出てパウダールームに行こうとすると、弥太郎さんの部屋の奥にある洗面台に案内連れていかれる。


部屋の中にも専用の水回りが備えられていて、この部屋自体がホテルの一室のような造りになっていた。


洗面所に行くと、弥太郎さんはタオルを私にぽんと投げて渡すなり、扉を閉めて行ってしまった。


タオルを広げると、着替えも一緒に入っている。これに着替えろということか。ぶっきらぼうなくせに、気遣いは細やかで優しい。


「ほんと、今だけは優しい人だな……

初めて弥太郎さんののこと優しいと思った」


着替えと洗顔を終えて戻ると、弥太郎さんはまた私をベッドまで連れていってくれる。


泣いていたことについても、あんなところで寝ていたことについても、弥太郎さんは何も聞かなかった。
< 76 / 220 >

この作品をシェア

pagetop