イノセント

一時間ほどが経ち、大方の食事も終わったところで Abelは席を離れた。

食堂を出る際、わざわざ私の元へ来て

「後で俺の部屋に来い。」

とだけ言って出ていった。

……嫌な予感。

昼間、大勢の前では あんな風に言っていたが きっとAbelは私のことをよく思っていない。

少なくともAbelにだけは死を願われていたと思う。

アレは幼い頃から 国王という職に対しての執着が酷かったから。

最後に食堂から去ろうと思っていた私は 暇つぶしに 水を飲んだり、近くの侍従と話したりしていた。

「Victor、明朝 9:00に私の部屋に来るよう。」

父上は席を立った際にそう仰った。

「解りました。」

Gloveo君は父上の後を付いて 共に食堂を去っていった。

この様子だと、父上はGloveo君をたいそう可愛がっているのだろう。

そして、Gloveo君も父上のことを気に入っている。

私からすると 幼少の頃から 父上は近寄り難い存在だったから そのように懐いているGloveo君が不思議に思える。

孫煩悩、というやつか。

恐らく 私にもAbelにも、父上はとても厳しく接していた分 孫を可愛がっているのだろう。

「Daintyは、まだここに居る?」

「……Victor、行かないで。」

私の手を握る。

「どうして⁇

Abelは私の弟なんだ、弟のお願いを聞いてやるのは 兄の務めだろう?」

「なら、私も一緒に行くわ。」

「私の身を案じてくれているのは嬉しい、が 来ないでくれ。

君の前で弱い姿を見せたくない。」

「……無事で居て。」

「……」

Daintyを残したまま 私は食堂を出、その足でAbelの部屋へと向かった。

その途中、久しぶりに顔を合わせた使用人と少し言葉を交わしたりした。

私のことを覚えてくれている人がいる、というだけで 嬉しい。

Abelの部屋は私の部屋とは ほぼ正反対の場所にある。

私の部屋が西棟3階であるのに対して Abelの部屋は東棟4階。

7〜8分程して Abelの部屋の前に着いた。

……入るのには中々の勇気がいるな。

ノックを2回、3回、1回。

「私だ、Victorだ。入るよ⁇」

「あぁ、入ってくれ。」

Abelの声。
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