宵の朔に-主さまの気まぐれ-
縁側に戻ると十六夜は煙管を吹かし、朔と凶姫は肩を並べて座って談笑していた。

少し胸がずきっと痛んだがなんでもない風を装って輝夜に盥を置いてもらうと、先ほど摘んだ花の花びらを毟って水に撒いた。


「いい香りがしますから涼んで下さいね」


「ありがとう柚葉」


「兄さん、お嬢さんに私の出生の話をしようと思うのですがいいでしょうか」


「ああ、お前がいいならいいけど…」


「では失礼します。行きましょうかお嬢さん」


――朔と十六夜に軽く頭を下げた輝夜が柚葉を伴ってその場を離れると、残された面々は顔を見合わせて呆気に取られていた。


「…なんだあれは」


「そう思いますよね。輝夜…まさか…」


「…あれは使命を帯びている。女を作るようには思えんが」


「ですが輝夜もそろそろ旅を終わらせたいと思っているようですから…」


「…複雑そうな顔をしているが、お前はどうなんだ?」


複雑そうな表情をしていると十六夜に言われた朔は、自身の頬に触れながら首を捻った。


「柚葉にも輝夜にも幸せになってもらいたいと思っていますから、ふたりが夫婦になるなら…」


「そうか?喜んでいるようには見えんが」


――くいっと凶姫に袖を引っ張られた朔は、凶姫の頬が膨れているのを見て苦笑すると、凶姫の手を引いて立ち上がらせて十六夜に頭を下げた。


「ちょっと話があるので失礼します」


「ああ」


そして足早に立ち去りつつ、何も言わない凶姫に少し焦りつつ、背の高い花々が植えてある一角に連れ込んで何故か言い訳。


「いや違うんだ。俺は喜んで…」


「…あなたが柚葉にただならぬ感情があるのは分かってるわ。だって執着しているもの。…女として意識しているんでしょう?」


…執着はしているかもしれないが、女として見たことはほとんどない。

むしろ今目の前でへそを曲げている凶姫の機嫌をなんとか直そうと必死になっていた。


「ただならぬ感情というか…違うぞ。女としては見てない。柚葉は友だ」


「ふうん、いいのよ別に。あなた当主だから妻は何人居てもいいんでしょう?だから別に私は…」


「妻はひとりしか持たない」


ぎゅうっと抱きしめられた。

信じたいが…男と女は友でいられるのだろうか?

いまいち納得できず、ただ抱きしめられた。
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