宵の朔に-主さまの気まぐれ-
凶姫に手を引かれた朔が強引に引っ張られて居間に戻り、無言で見上げてきた十六夜ににっこり微笑みかけた。


「ちょっとお仕置きをするので放っておいて頂けます?」


「…分かった」


「ちょ…父様…芙蓉、お仕置きってなんだ?」


「あなたは黙ってて」


有無を言わさぬ迫力に親子共々閉口。

朔が現在休んでいる部屋に着いた凶姫は、ぴしゃりと襖を閉めて朔に命令した。


「結界を張って」


「いいけど、なんか物騒なことになってないか?」


「あなたがいけないのよ。私は今からあなたを心身共に夢中にさせてみせる。私があなたに組み敷かれてただ抱かれるだけの女と思わないで。一体どれだけ長い間遊郭に居たと思ってるのよ。抱かれずに男を篭絡させる方法、抱かれて男を篭絡させる方法…全部あなたに見せてあげる」


――どきりとした。

凶姫が何をしようとしているのか察した朔は、一応結界を張りつつ後ずさりして問うた。


「お前…俺を手籠めにする気か?」


「先に私を手籠めにしたのはそっちよ、朔。私たち妖は強い者に無条件に憧れる。私も例外ではないし、だけど私にだって矜持はあるの。あなたみたいに強くてきれいな妖は女を夢中にさせるわ。それも一方的にね」


つらつらと息もせず話しながら朔の腕を掴み、首から肩にかけて指で撫でた後、ゆっくり上半身を脱がせると、息を呑む朔ににっこり笑いかけた。


「女にだってその権利はあるわ。私があなたを夢中にさせていないからほかの女を気にかけるんでしょう?私はあなたに夢中だけど、あなたはそうじゃない。だから今から…」


ゆっくり朔を座らせた凶姫は、自らの帯をゆっくり解いた。

見惚れる朔に妖艶に笑って見せて、怒気を孕んだ毒気のある言葉で朔を圧倒した。


「死ぬよりもつらい快楽の渦に落としてあげる。私を怒らせた罰よ」


「芙蓉…」


ただ抱かれるだけの女にはならない。

魂から虜にしてみせる――
< 203 / 551 >

この作品をシェア

pagetop