宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔の朗読する声が耳にとても心地よく、だが凶姫の心をざわつかせる。
こうして男とまともに会話をするのはどのくらいぶりだろうか。
遊郭で舞いを提供している時は皆は喜んで見てくれるが、怖がって話をしようとしない。
…中には怖いもの見たさというか、大金を摘んで一夜の春を買おうとする者も居るが――
結局はみんなみんな、死んでゆくのだ。
「…おしまい」
「ああもう終わったの?残念…」
「次はもっと長いのを持ってくるよ」
「月、あなたはここに何をしに来ているの?あなたの雰囲気だと相当ないいとこの家の子でしょ」
「うん、まあそうだけど…やむにやまれぬ事情があって一週間ここに通わないといけないことになって。その間はこうして会ってくれるといいなと思ってる」
「私に会いに?それとも柚葉に?」
会話が止まった。
ふたりの間に事情があることは分かっているが、柚葉は問うても何も語らず、遊郭に売られる女は大抵悲惨な運命に見舞われているため、事情を話したがらない者が多い。
「柚葉は…本当にばったり会ったんだ。びっくりした」
「恋人だったんでしょ?」
「それとも何か違う気がするけど、もう少し一緒に居たらそうなっていたかもしれない。柚葉には心を救われた時期があったんだ」
「心だけ?それとも身体も?」
「俺に興味あるのか?」
「別に?ただの会話の流れで聞いただけよ。そういえばこの集落にとても高貴な方がいらっしゃるって言ってたけどあなた知ってる?」
思わず朔が吹き出しそうになり、口元を押さえて笑いをふさぎ込むと、素直に頷いた。
「そうらしいけどよく知らない」
「ふうん。ま、お会いすることもないでしょうけどね」
「凶姫、お前は何故遊郭に売られたんだ?」
――朔に遊郭で暮らしていることを話していなかった凶姫は、見えない目をきっと朔に向けて怒りをにじませた。
「誰から聞いたのよ」
「俺が調べた。少し気になって」
「私に興味あるの?」
「まあな」
凶姫は怒りを抑えながら鼻を鳴らした。
「私に関わってもいいことないわよ」
「それは俺が決めることだ。凶姫、教えてくれ」
…目の前の男を死なせるわけにはいかない。
凶姫が俯く。
それは拒絶の合図だった。
こうして男とまともに会話をするのはどのくらいぶりだろうか。
遊郭で舞いを提供している時は皆は喜んで見てくれるが、怖がって話をしようとしない。
…中には怖いもの見たさというか、大金を摘んで一夜の春を買おうとする者も居るが――
結局はみんなみんな、死んでゆくのだ。
「…おしまい」
「ああもう終わったの?残念…」
「次はもっと長いのを持ってくるよ」
「月、あなたはここに何をしに来ているの?あなたの雰囲気だと相当ないいとこの家の子でしょ」
「うん、まあそうだけど…やむにやまれぬ事情があって一週間ここに通わないといけないことになって。その間はこうして会ってくれるといいなと思ってる」
「私に会いに?それとも柚葉に?」
会話が止まった。
ふたりの間に事情があることは分かっているが、柚葉は問うても何も語らず、遊郭に売られる女は大抵悲惨な運命に見舞われているため、事情を話したがらない者が多い。
「柚葉は…本当にばったり会ったんだ。びっくりした」
「恋人だったんでしょ?」
「それとも何か違う気がするけど、もう少し一緒に居たらそうなっていたかもしれない。柚葉には心を救われた時期があったんだ」
「心だけ?それとも身体も?」
「俺に興味あるのか?」
「別に?ただの会話の流れで聞いただけよ。そういえばこの集落にとても高貴な方がいらっしゃるって言ってたけどあなた知ってる?」
思わず朔が吹き出しそうになり、口元を押さえて笑いをふさぎ込むと、素直に頷いた。
「そうらしいけどよく知らない」
「ふうん。ま、お会いすることもないでしょうけどね」
「凶姫、お前は何故遊郭に売られたんだ?」
――朔に遊郭で暮らしていることを話していなかった凶姫は、見えない目をきっと朔に向けて怒りをにじませた。
「誰から聞いたのよ」
「俺が調べた。少し気になって」
「私に興味あるの?」
「まあな」
凶姫は怒りを抑えながら鼻を鳴らした。
「私に関わってもいいことないわよ」
「それは俺が決めることだ。凶姫、教えてくれ」
…目の前の男を死なせるわけにはいかない。
凶姫が俯く。
それは拒絶の合図だった。