宵の朔に-主さまの気まぐれ-
柚葉とは会えなかったが、凶姫に関しては成果があった。

雪男にはほとんど隠し事をしない朔は、凶姫から聞いた話と雪男が集めた情報のすり合わせを行なっていた。


「鬼族の格式ある家の姫ねえ…。一家全滅ってことだろ?そんな大事件が耳に入らないわけないんだけどな」


「俺もそう思う。自分以外皆殺されたと言っていた。里の者が隠したのか?」


「そもそもその里を探さないとな。もう少し探ってみるけど、ちなみに主さまはどこまで関わる系だ?」


雪男と饅頭を頬張りながら話していた朔は、さも意外だと言わんばかりに首を傾げた。


「どこまでとは?最初から最後まで関わる系だが?」


「待て待て待て。得体の知れない敵かもしれない。依頼も来てないし、こっちから関わるのは…」


「柚葉も関わってる。俺は…あそこからふたりを解放してやりたいんだ」


かたや過去に心を救われた女と、かたや出会って間も無い謎の女ーー

朔の父はかつて女泣かせの男であり、その息子の朔にもその気があるのかと雪男が口をへの字にすると、それに勘付いた朔は雪男の口に饅頭を突っ込んだ。


「むぐっ」


「俺は何も妙な気を起こしてるわけじゃいし、鬼族の家の者がおかしなことに巻き込まれて家名が潰れた理由を知りたいんだ。同族だしな」


「分かったよなんとかするけど…」


朔が凶姫に関わろうとするのはあまり気が向かないが…

あちらはあちらで関わろうとする朔を拒絶しているように見える。


「話を聞けるほど仲良くなれそうなのか?」


「誰に言ってるんだ?当然だろ」


朔が本気を出せば普通の女はいちころ。

だが…

凶姫は、普通の女だろうかーー?


「ま、主さまに食いつかない女なんて今まで居なかったしな。居たとすればそれは…」


きっと、運命の相手なのだろうーー

< 27 / 551 >

この作品をシェア

pagetop