宵の朔に-主さまの気まぐれ-
雪男自身はまだ凶姫と言葉を交わしたことはなく、朔の話からするにかなり用心深い性格のようだということ位しか分かっていない。

だからこそ、実際話を聞いてみなければと思っていた。


――二日目、朔がいわば見合い相手と話している間に雪男はなんとか周の魔の手を掻い潜って脱出すると、朔と凶姫が待ち合わせ場所にしている泉の前に行った。

…そこにはすでに凶姫の姿があり、嫌だと言いながらも朔を待っているように見えた。

寝ているように見える凶姫に近付いて、そっと声をかけた。


「凶姫」


「!?…あなた…月のお付きの人ね」


「月、ねえ…」


勝手に名をつけられている。

自身が百鬼夜行の主であることを隠している朔の心情を慮った雪男は、警戒して座りながら距離を取った凶姫の近くにすとんと座った。


「うちの主のことなんだけど。迷惑かけてないか?」


「…え?どういう意味?」


「結構ぐいぐい色々聞いたり行動に出るだろ。普段自制が利いてるから珍しいことなんだけどさ、ああなると止めても無駄なんだ」


…化粧をせず素面状態の凶姫はどこかあどけなく見えた。

舞姫と言えば派手に化粧をして派手に着飾り、舞いを提供しつつ夜の相手もしたりする。

正直言えば朔にはそういった夜の女とは関わってほしくはないのだが――


「そうね、かなり強引よね。私の素性ばかり気にされて困ってるけど、所詮一週間だけでしょ。いいとこの子ならちゃんと監視しなさいよね」


「お、おう」


「あら?あなたももしかしていい男?ああ、奥さん居るのね、残念」


何も語ってはいないのに見抜かれて驚いた雪男がまじまじと凶姫を見つめる。


…違う。

この凶姫という女は、何かが違う。


雪男にもそう思わせた凶姫は、また力なく花々の上に身体を投げ出して目を閉じた。
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