宵の朔に-主さまの気まぐれ-
さらに短くなった朔の睡眠時間を気にした朧は、雪男から事情を聞いた翌朝、百鬼夜行を終えてすぐ発とうとする朔の手を引っ張って止めた。


「兄様。しっかり寝てからじゃないと行かせませんから」


「朧…」


「それどころじゃないのは分かってます。でもこのままだと身体を壊します。だから…」


ーー年月を経てさらに美しく成長した末妹が心から心配してくれているのに強行突破するわけにはいかず、雪男に目で助けを求めると知らんぷり。

…確かに少し集中力を欠くこともあったし百鬼たちに示しもつかず、朔は朧の肩を抱いてにっこり。


「じゃあ膝枕してくれたら寝ようかな」


「はあっ!?」


「いいですよ、ゆっくり寝て下さいね」


口を挟もうとする雪男の前でごろんと横になった朔が朧の膝枕であっと言う間に眠ってしまい、ぼやきの止まらない雪男。


「ちゃんと部屋で寝ろっつーの」


「これ位いいじゃないですか。…兄様やっぱり疲れてるんですね」


朔の長い睫毛を見つめながら朧が呟くと、雪男は縁側に腰掛けて頷いた。


「きっとこれからもっと大変なことになる。先代や晴明の助けも要るかもしれない。朧、お前も用心を…」


「私は大丈夫。子供たちもしっかり守ってみせますからお師匠様は兄様をお願いします」


「おう、任せとけ」


「雪男よ、隠し事はいかんなあ」


屋根の上から聞こえてきた声にぎょっとして見上げると、そこには銀と焔の親子が居た。


「こそこそと何をしている?連日外出しているだろう?話せ」


笑顔で有無を言わさぬ迫力で押してくる銀にこれ以上隠し立てすることは不可能に等しい。

それに銀と焔なら相当な戦力になるだろう。


「主さまが起きたらちゃんと話す」


まだ事情が分かったばかりだったが朔は引きそうにない。

すやすや寝ている朔の邪魔にならないようそっと席を外した雪男は、策を講じるためにもう一度文を読み返した。
< 32 / 551 >

この作品をシェア

pagetop