宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「ぎんも一緒に?嫌だ」


「嫌だ、じゃない。話は雪男から聞いたが、お前は余計な騒動に首を突っ込もうとしてるんだ。十六夜からお前を預かっている身としてはその女をこの目で見ておかないとな」


「別に預かってもらってるわけじゃない」


銀がついて行くと言ってから眠りから覚めた朔は若干不機嫌になり、腕を組んで戦う姿勢を見せた。

焔もまた朔が多くの見合い相手、そして顔も知らず素性も知れない女と毎日会っていると知ったからには心穏やかではなく、朔の足元に傅いて熱弁をふるった。


「私たちはあなたを守る身。そして主さま…あなたが気にしておられる女は男を悉く死に追いやるという不吉な女です。私たちはその女を見定めなければならないのです」


「…凶姫自身は全く問題ない。どう関われば死んでしまうのかもまだ分からないんだ」


「それはお前…抱いたら死ぬんだろうが」


率直に思ったことを口にした銀のわき腹を結構な勢いで肘でど突いて悶絶させた雪男は、朔の頭をあやすようにぽんぽん叩くと、顔を覗き込んだ。


「まあついて来る分には問題ないだろ?主さまが凶姫から話を聞きだすまでは銀たちには関わらせないようにするからさ。こいつらは主さまのことが心配なんだ」


「…分かった。邪魔するなよ」


銀と焔が尻尾をふりふりすると、朔は短時間ではあるが熟睡させてくれた朧に笑いかけて手を振った。


「じゃあ行ってくる」


「兄様、お気をつけて」


――結局百鬼夜行においても朔の左右をがっちり固める銀と焔もついてくる羽目になり、道中隣を行く雪男に愚痴を零した。


「あいつらがついて来たら目立つじゃないか」


「うん、もう十分目立ってるからひとりやふたり増えたって変わんねえよ」


少し天然のある朔に吹き出した雪男は、外出する朔の護衛ができて嬉しそうにしている焔を肩越しにちらりと振り返った。


「主さまに何かあれば間違いなく焔が盾になってくれるし、悪さする奴なんか出て来れないって」


「お前は盾にならないのか?」


「俺?俺は矛の役な」


――もう完全に陽が上り、凶姫を待たせているかもしれないと密かに気が逸りながら道中を急ぐ。

その時凶姫は――

熟睡していた。
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