宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔が見合い相手と会っている間、雪男たちは先回りして凶姫の様子を見に行っていた。
「あれか。…なんとも妖艶な女だな」
「本来遊郭っていえばそこから出て来れないんだが、凶姫と柚葉はこうして外出が許されてる。主さまがきっとその辺も聞き出すと思うけど」
「…主さまはあの女を好いているのですか?」
朔に絶大な信頼と好意を寄せている焔がむっとしながら雪男に問うと、まだそういった話を朔から聞き出せていない雪男は曖昧に首を傾げて唸った。
「うーん…まあ…少なくとも普通以上な気はするけど」
「ほう、じゃああれが嫁候補になるわけか」
「いやいや、主さまはその気はないって言ってたから現段階では違うと思うぜ」
「そうじゃない女とこうも深く関わるか?お家事情に深く関係する事案だぞこれは」
銀は真っ白な耳をぴくぴく動かして興味津々だったが、焔は尻尾を小刻みに動かしていらいら。
そして雪男は花々の上に身体を投げ出して熟睡している凶姫を見遣ると少し離れた場所の木の幹にもたれかかって腕を組んだ。
「そもそもこの事案を持ち込んでこなかったことが主さまの逆鱗に触れてるっぽいんだよな。俺たちが反対しても主さまは聞いてくれないと思うぞ。だからこっちはこっちで主さまを守り通すことに専念しようぜ」
「ああ、それはもちろんだが」
――こうして無防備に凶姫が熟睡しているのは、この集落で彼女に危害を加える者が居ないからだ。
凶姫は独り。
全てを無くして遊郭に売り飛ばされ、全ての矜持をへし折られてもなお生かされているその意味――
「敵が分からん以上、朔にいつ何が起こるかも知れん。目を離さないよう注意していこう」
銀も焔も朔のことをとても大切に思っている。
雪男とてそれは例外ではなく、朔の身が危ぶまれるかもしれない存在の凶姫を朔が来るまでずっと見守った。
「あれか。…なんとも妖艶な女だな」
「本来遊郭っていえばそこから出て来れないんだが、凶姫と柚葉はこうして外出が許されてる。主さまがきっとその辺も聞き出すと思うけど」
「…主さまはあの女を好いているのですか?」
朔に絶大な信頼と好意を寄せている焔がむっとしながら雪男に問うと、まだそういった話を朔から聞き出せていない雪男は曖昧に首を傾げて唸った。
「うーん…まあ…少なくとも普通以上な気はするけど」
「ほう、じゃああれが嫁候補になるわけか」
「いやいや、主さまはその気はないって言ってたから現段階では違うと思うぜ」
「そうじゃない女とこうも深く関わるか?お家事情に深く関係する事案だぞこれは」
銀は真っ白な耳をぴくぴく動かして興味津々だったが、焔は尻尾を小刻みに動かしていらいら。
そして雪男は花々の上に身体を投げ出して熟睡している凶姫を見遣ると少し離れた場所の木の幹にもたれかかって腕を組んだ。
「そもそもこの事案を持ち込んでこなかったことが主さまの逆鱗に触れてるっぽいんだよな。俺たちが反対しても主さまは聞いてくれないと思うぞ。だからこっちはこっちで主さまを守り通すことに専念しようぜ」
「ああ、それはもちろんだが」
――こうして無防備に凶姫が熟睡しているのは、この集落で彼女に危害を加える者が居ないからだ。
凶姫は独り。
全てを無くして遊郭に売り飛ばされ、全ての矜持をへし折られてもなお生かされているその意味――
「敵が分からん以上、朔にいつ何が起こるかも知れん。目を離さないよう注意していこう」
銀も焔も朔のことをとても大切に思っている。
雪男とてそれは例外ではなく、朔の身が危ぶまれるかもしれない存在の凶姫を朔が来るまでずっと見守った。