宵の朔に-主さまの気まぐれ-
凶姫は、黄泉に言われた通り強い光を見ないようにするため薄目で朔を見た。

すぐに目が合って――

たった一度しか見ていなかった朔の顔は壮絶にきれいで、肌もつるつるで髪もさらさらで、目元は穏やかに緩んでいてその唇は誘うように少し開いていて――


「朔…あなた…朔…よね…?」


「そうだけど。芙蓉、見えるようになったんだな?俺が見えるか?」


「見える…見えるわ。朔…私…あなたが見えてる…!」


背伸びをして、朔の両頬を両手で包み込んで満面の笑みで愛しい男を見つめた。

朔もまた、吊り上がりすぎない程度に吊った凶姫の目が赤くきらきらと輝いて、その目の中に自分が映っているのを見て、凶姫の両手を優しく握った。


「この時を待っていたんだ。芙蓉…お前は美しいと思っていたけど、本当に美しいんだな」


「朔…朔……あなたも、なんてきれいなの…」


「取り込み中悪いが、少しこっちを向いてもらえるか」


ふたりの世界に割って入った黄泉は、凶姫が肩を揺らして怯える様子に鼻を鳴らして腰に手をあてて冷淡な声で凶姫に声をかけた。


「ちゃんと見えているか確認する。こっちを見ろ」


「…お前の顔なんて見たくないわ」


「それは申し訳ないが最終確認だ。確認させないと、俺はここから出て行かないぞ」


…それは困る。

せっかく朔の顔を見ることができて嬉しくて仕方ないのに、黄泉の顔を見なければならないなんて。

しかし黄泉の背後には確か輝夜と柚葉が居るはずだ。

ふたりの顔をまだ一度も見ていない凶姫は、勇気を振り絞って振り返った。


「……早く確認をして」


「ふむ、問題なさそうだ。…やっぱりお前は美しいな。お前のような傀儡を作りたいのに」


もう、作れない。

こんな美しい傀儡を作りたかったのに。


――黄泉が凶姫の頬に左手を伸ばす。

凶姫は、凍えるような冷たい目で黄泉を見つめて言い放った。


「触れると、殺すわ」


「主…やめて下さい……主…!」


「殺す、か。例えそう言われようとも…」


触りたい。


「主!!」


冥の絶叫が、響いた。

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