宵の朔に-主さまの気まぐれ-
しばらくして綺麗さっぱりになった凶姫が朧から借りた薄紫の着物を着て現れると、朔は柚葉の背中を押して促した。
「じゃあ柚葉、行って来い」
「兄様、その前にちょっといいですか?」
「うん?」
険しい表情の朧に相槌を打った朔が立ち上がると凶姫は柚葉の元へ行ってその手を握っていた。
…最も怖い目に遭ったのは自分自身だというのに――
「どうした?」
「兄様…凶姫さんの身体…どうしたんですか?あちこちその…痣が…」
「ああ…うん、後で話そうと思っていたんだけど…男に手ひどいことをされたみたいなんだ。目が見えないのはその男のせいらしくて」
「そう、なんですか。掌にも大きな傷があります。お風呂に入るまで短刀を手放さなくて、それで切ったみたいなんです。治療をしないと痕が残ります」
「そこは柚葉に頼もうと思うよ。あ、柚葉っていうのはあの髪があちこち跳ねてる子の方。柚葉は治癒の術が使えるから」
朔がそうして女の話をするのは本当に珍しく、朧は唇を噛み締めながら朔の着物の袖を握った。
妹が何を言いたいのかそれで悟った朔は、優しく抱きしめて頭を撫でてやった。
「世の中幸せに暮らしている者も多いが、そうじゃない者も居る。凶姫はその両方を経験したんだ。柚葉もね。朧、彼女たちはしばらくうちで匿う。凶姫をひどい目に遭わせた奴がここに来るかもしれないからお前は避難を…」
「いやです。私はお師匠様と子供たちと兄様の傍に居ます。忘れたんですか?私は強いんですよ」
「はは、そうだった。俺が代を譲ってやってもいいって思う位お前は強くて可愛くて美しい妹だった」
「本当に危険な時は自分で判断しますから。兄様…私、お友達になってもいいですか?」
「ああもちろん。凶姫と柚葉は元々名のある家の姫なんだ。立場はお前と同じだから仲良くしてやってほしい」
「ありがとうございます。ふふ」
嬉しそうに笑った朧の頭をまた撫でてふたりの元に戻る。
凶姫と柚葉は手を取り合って額をこつんとあてて目を閉じていた。
あの光景とあの受けた痛みを消し去りたい――そう願っているように見えた。
「じゃあ柚葉、行って来い」
「兄様、その前にちょっといいですか?」
「うん?」
険しい表情の朧に相槌を打った朔が立ち上がると凶姫は柚葉の元へ行ってその手を握っていた。
…最も怖い目に遭ったのは自分自身だというのに――
「どうした?」
「兄様…凶姫さんの身体…どうしたんですか?あちこちその…痣が…」
「ああ…うん、後で話そうと思っていたんだけど…男に手ひどいことをされたみたいなんだ。目が見えないのはその男のせいらしくて」
「そう、なんですか。掌にも大きな傷があります。お風呂に入るまで短刀を手放さなくて、それで切ったみたいなんです。治療をしないと痕が残ります」
「そこは柚葉に頼もうと思うよ。あ、柚葉っていうのはあの髪があちこち跳ねてる子の方。柚葉は治癒の術が使えるから」
朔がそうして女の話をするのは本当に珍しく、朧は唇を噛み締めながら朔の着物の袖を握った。
妹が何を言いたいのかそれで悟った朔は、優しく抱きしめて頭を撫でてやった。
「世の中幸せに暮らしている者も多いが、そうじゃない者も居る。凶姫はその両方を経験したんだ。柚葉もね。朧、彼女たちはしばらくうちで匿う。凶姫をひどい目に遭わせた奴がここに来るかもしれないからお前は避難を…」
「いやです。私はお師匠様と子供たちと兄様の傍に居ます。忘れたんですか?私は強いんですよ」
「はは、そうだった。俺が代を譲ってやってもいいって思う位お前は強くて可愛くて美しい妹だった」
「本当に危険な時は自分で判断しますから。兄様…私、お友達になってもいいですか?」
「ああもちろん。凶姫と柚葉は元々名のある家の姫なんだ。立場はお前と同じだから仲良くしてやってほしい」
「ありがとうございます。ふふ」
嬉しそうに笑った朧の頭をまた撫でてふたりの元に戻る。
凶姫と柚葉は手を取り合って額をこつんとあてて目を閉じていた。
あの光景とあの受けた痛みを消し去りたい――そう願っているように見えた。