宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「朔ちゃん雪ちゃんちょっといい?朧ちゃんたちはここに居てね」


ようやく落ち着いた凶姫が名残惜しそうに息吹の手を離すと、息吹は我が子にするように頭を一度撫でてやって部屋を出て居間に移動した。


「事情は大体分かりました。ここに置いてあげるんでしょ?」


「はい。いいですか?」


「ここは朔ちゃんのお家なんだから好きにしていいんだよ。朔ちゃん雪ちゃん…守ってあげてね」


言われずともそうするつもりだが反論はせず朔が頷くと、雪男は逆に息吹に警告を発した。


「お前こそここにもう来ない方がいい。“渡り”が関わってるんだ。…もうあんな思いしたくないだろ?」


――あんな思いというのは朔がまだ小さかった頃の話で、息吹は当時とてもつらく悲しい思いをした。

“渡り”が関わるとろくなことにならないというのは先代の十六夜も同意見で、息吹が関わると目の色が変わるためここにはあまり来てほしくないのだが――


「十六夜さんが守ってくれるから私は大丈夫。それより朔ちゃんだよ。大丈夫?」


「俺は大丈夫ですよ。母様それよりさっきはいとも簡単に凶姫を手懐けましたね、さすがだなあ」


「ちょっと警戒してただけで本来はとっても素直な子だと思ったから叱ったの。ふふ、朔ちゃんもまだまだだね」


一通り話をした後息吹が凶姫たちの居る部屋に戻り、朔は首を鳴らしながら縁側に出て座ると息をついた。

…なんだか大変な一日で、しかもまだ終わっていない。

いつも通り百鬼夜行にも出なければならないが、留守は雪男に任せているから問題はないのだが…


「なあ主さま、そういや凶姫を助けた時裸だったけどじろじろ見たりしてないだろうな。もしじろじろ見たんならちゃんと謝れよ」


隣に座った雪男を一瞬きょとんとした目で見た朔だったが――


しばらくの間空を見上げて何かを思い返した後、左腕を上げて胸の下あたりをちょんと指してにっこり。


「ここにほくろがあった。いやらしい身体してたな」


「じっくり見てんじゃねえか!」


激しい突っ込みを食らって、にんまり。
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