葵くん、そんなにドキドキさせないで。
「……なーんて、ね。あは、冗談冗談!
じゃあ俺女の子たち待たせてるから行くわ」
パッと両手を上げて、じゃあね〜、なんて手を振りながら私たちの横を通り過ぎる。
「……所詮は偽物の彼氏だろ?」
葵くんの耳元で、大野くんがそう呟いたのが聞こえた。
その言葉が、胸にズシリと響く。
「田中さん」
「えっ、あ、はい!」
野次馬が少なくなってきたところで、私の名前を呼んだ葵くん。
ふ、振り向くのが怖いな。
「……ちょっとこっち来て」
「うわっ!」
葵くんはいきなり私の腕を引っ張って、体育館を出て校舎の中へ。
もう制服に着替えて帰ろうとしている生徒がちらほらいる中、
葵くんが立ち止まったのは廊下から死角になっている階段の下。