リボンと王子様
私が有子おばさまに雇用された理由は、千歳さんの女性関係を探るためだった。

千歳さんの婚約……将来の伴侶を見つけるために。


私が千歳さんの恋人になることを期待して、ではなかった。

むしろ、私は絶対にその可能性がないと思われていたから雇用されたのだと思う。


そんな私が千歳さんと急に現れて、交際宣言をしたのだ。

有子おばさまの心中はきっと穏やかではない筈なのに。



わっと泣き出したい気分だった。

……もう限界だった。

色々なことを誤魔化すことに。

心が悲鳴をあげていた。



何よりも千歳さんに嘘をつき続ける自信がなかった。

もうこれ以上嘘はつきたくなかった。


こんなにも真っ直ぐに私を思ってくれている千歳さんを。

……傷つけたくない。


本当のことを離して嫌われてしまうかもしれない。

そのことが胸をかきむしりたくなるくらいに恐かった。

話さずにいられるならどんなにいいだろう。

このまま何も無かったことにして、傍にいられたら。


だけど。


それでは何も変わらないし解決できない。

問題が先伸ばしになるだけだ。


わかっているのに。

私が今日までについてきた嘘を知って。

綺麗な漆黒の瞳に翳りが浮かぶのを見るのは耐えられそうになかった。


答えがでない迷路みたいに。

数日間、ずっとそのことばかりを考えていた。

この甘い微笑みを温もりを失うことなんて考えられないくらいに。

気がついたらもう引き返せない程に。

千歳さんが好きで。

苦しかった。

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