リボンと王子様
けれど。
今の私は葛城穂花ではない。
お手伝いさんの葛花穂だ。
不可抗力とはいえ、雇用主に禁じられていた引き出しを開けてその上、ひっくり返してしまった。
雇われたものとして、やってはいけない失態だ。
勝手に見てしまったことへの罪悪感。
酷くぶつけた筈の膝の痛みより、心が痛い。
ノロノロとエプロンのポケットから連絡用スマートフォンを取り出す。
震える指を何とか動かし、千歳さんに電話をかける。
幾度となく聞こえる無機質な呼び出し音。
その時間がとても長く感じられる。
何て謝罪したらいいのか。
ゴクリ、と唾を呑み込む。
手が身体が冷たくなる。
カチャリ、と音がして息を呑んだ私の耳に響いたものは留守番電話のメッセージで。
思わず大きく息を吐き出した。
その後、仕事の合間に何度かけても千歳さんには繋がらなかった。
留守番電話のメッセージで謝罪をすることもメールで謝罪することも憚られた。
壁にかけられた時計は午後五時を指していた。
今の私は葛城穂花ではない。
お手伝いさんの葛花穂だ。
不可抗力とはいえ、雇用主に禁じられていた引き出しを開けてその上、ひっくり返してしまった。
雇われたものとして、やってはいけない失態だ。
勝手に見てしまったことへの罪悪感。
酷くぶつけた筈の膝の痛みより、心が痛い。
ノロノロとエプロンのポケットから連絡用スマートフォンを取り出す。
震える指を何とか動かし、千歳さんに電話をかける。
幾度となく聞こえる無機質な呼び出し音。
その時間がとても長く感じられる。
何て謝罪したらいいのか。
ゴクリ、と唾を呑み込む。
手が身体が冷たくなる。
カチャリ、と音がして息を呑んだ私の耳に響いたものは留守番電話のメッセージで。
思わず大きく息を吐き出した。
その後、仕事の合間に何度かけても千歳さんには繋がらなかった。
留守番電話のメッセージで謝罪をすることもメールで謝罪することも憚られた。
壁にかけられた時計は午後五時を指していた。