リボンと王子様
「それ……!」


ケースを目にした私がソファから立ち上がろうとすると。


「いいから座って」


と、一喝された。


「あ、あのっ……」

「別に他のものも破損していないし、気にすんな。
これも大丈夫」


ソファのすぐ近くにあるダイニングテーブルにコトン、と大切そうにケースを置く千歳さん。

伏せられた、男性にしてはもったいないくらいの長い睫毛が頬に陰を落とす。

木目調の焦げ茶色のダイニングテーブルに透明なケースが輝くように見えた。

私に背を向けながら千歳さんは、話し出した。


「……俺にとったら大事なものなんだ」


抑揚のない声。


「たかがリボンなんだけどな。
……このリボンの持ち主をずっと……四年前から探している」

「……!」


低い声でハッキリと言い切られて。

知っていた事実なのに。

胸に刺さった。


「……馬鹿馬鹿しい話かもしれないけど。
このリボンを俺にくれた彼女に救われた気がしたんだ。
彼女にもう一度会いたい、話がしたいんだ」


短い言葉から滲む焦燥感。

漏れる切実さに。

私は顔を上げられなかった。


「……おかしいだろ?
いい歳した男が、一度会っただけの女を忘れられないなんて、さ」


自嘲気味に薄く笑う彼に。

かける言葉がなかった。
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