リボンと王子様
何を言えばいい?

あなたが探している女性は私ですって言えばいい?



……そんなにも。

溢れそうな切なさを瞳にたたえて。

四年間も想っていてくれただなんて。

知らなかった。


「もし、もし……会えたら……どうされますか?」


驚くほど掠れた声で吐き出した私の言葉に。

ハッとした表情で千歳さんは私を見た。



「……今度は離さない」



たった一言。

キッパリと力強く言いきった。

その漆黒の瞳に浮かぶのは揺るぎない決意。

『彼女』への強い気持ちだった。



「……笑わないのか?」



先程までの強い口調とはうってかわって。

穏やかな口調に。

私は小さく首を横に振った。



「……素敵だと思います、とても」



それを伝えることが精一杯。

笑えない、笑うわけがない。



だって。


本当は。




あのホテルに足を運ぶ度に。

彼に似た人を見かける度に。

あの日、彼に教えられた花を見る度に、無意識に思い出していた。

きつく蓋をして閉じ込めた筈の記憶は、ふとした瞬間に簡単に開いて。



経験したことのない感情が怖くて、逃げ出してしまった二十歳の自分は正しかったのかと何度も自問自答した。



……認めてしまうことが怖かった。



たった一度出会っただけの男性にこんなにも心惹かれるなんて。

何にも知らない人に焦がれるなんて。

恋なんかじゃない。

そんなこと、ありえない。

現実を知らない、夢の見すぎだと。

本当の彼の姿は私が想像したものとは全く異なるかもしれないのにと。

あの日の魔法だと思い込みたかった。

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