リボンと王子様
私は一刻も早く破損等が本当にないのか、引き出しを確認してもらいたかったのだけれど。

私のぶつけた膝の具合を確認する方が先だと言われた。



黒のスキニーデニムなので捲し上げるのが難しい、とピッタリな言い訳を使ったら。

千歳さんは無言で立ちあがり、寝室から今日私が洗濯したばかりのグレーのスゥェットを持ってきた。



寝室に行くなら確認してくれたらいいのに……!



私の無言の反抗をシレッと無視しつつ。


「これに着替えろ」


アッサリ言い放つ。


「いえっ、本当に大丈夫ですから!
自宅で自分で確認……」


言い終わる前にジロリと睨まれて。

私はスゴスゴと空いている部屋でスキニーデニムからスゥェットに履き替えた。

千歳さんが普段着用している服を着ることに恥ずかしくなって、無意識に顔が赤くなる。

男性の、しかも私より随分長身な千歳さんのスゥェットは大きくて、裾を何度も折り返した。

履き替える時、チラリと見た膝は内出血になっていた。



「き、着替えましたけど……」



ソロリ、とリビングに戻った私を再びソファに座らせて、フローリングに膝をついた千歳さんはスゥェットの裾を無言で捲し上げた。

強引な仕草とは裏腹に、千歳さんの骨ばった綺麗な指が私の足にそっと触れる。


ドキン……ッ!



心臓が一際大きく跳ねた。

ただ傷を確認しようとしてくれているだけなのに、更に頬がカアッと熱を帯びる。

千歳さんの指が足に触れると、ジワリと肌が粟立つ。



「……痣になってるな……痛いだろ」



労るような千歳さんの声に。

私は慌てて首を横に振る。



「だ、大丈夫ですっ、これくらい!
わ、私の不注意ですから、お気になさらないでください……それよりもっ」

「……葛さんのせいじゃないだろ。
仕事熱心なのは有り難いけど無茶、するな……。
傷残ったらどうすんだよ」


痣を見つめたまま、ポソリと言われた。


「だっ、大丈夫ですよっ。
痣なんてすぐに消えますから……っ」


その瞬間。

顔を上げた千歳さんと目が合った。


声が出なかった。

綺麗な瞳に浮かぶ悲痛な色に。


……どうしてそんな悲しそうな瞳で私を見るの……?


千歳さんはサッと瞳を伏せて、そっとスゥェットの裾を元に戻して、寝室に向かった。

再びリビングに戻った千歳さんの手にあったものは、私が落とした透明なケースだった。
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