宮花物語
「よく盗み見したものだ。」

黒音は、一瞬だけ手を止める。

「そのような物の言い方は、お止め下さい。信寧王様があまりにも黄杏様の元へお通いになるので、自然に体に染み付いただけでございますよ。」

黒音の微笑みは、どこか艶っぽかった。

しかも自分を、好いている?

興味のなかった信志も、次第に黒音へ心を動かされていた。


二人で湯殿に入り、初夜を迎えた。

少し恥ずかしそうに、寝所へ入る黒音へ、信志は冷たく言い放った。

「そなた、生娘ではないだろう。」

黒音は、静かに目を背けた。

「隠すな。一緒に、湯殿へ入れば分かる。そなたは、男に裸を見せる事に、慣れているだろう。」

フッと黒音は、寝間着の袖で顔を覆った。

「なんて不躾なお言葉なのでしょう。今夜初めて情を交わすと言うのに。」

「ははは。初々しい振りは止めろ。」

そう言うと信志は、寝所に座り、服を捲った。
< 196 / 438 >

この作品をシェア

pagetop