宮花物語
すると信志は、黙って立ち上がった。

「王?」

「黄杏の元へ行ってくる。」

信志はそれだけ告げると、部屋を出て行ってしまった。


まだ昼間だというのに、屋敷に顔を出した信志に、黄杏は戸惑った。

「信寧王様……」

昨日、子を成す為ここには来ないでくれと、告げたばかりだと言うのに。

黄杏は、下を向いたまま、玄関に立ち尽くした。

「黄杏!」

そんな黄杏を、信志は玄関で抱きしめた。

それを見た女中達は皆、屋敷の奥へといなくなってしまった。

「王……。ここにはもうお訪ねにならぬようにと、昨日……」

「そのような事、構わぬ。」

黄杏は、顔を歪ませた。

「私がそなたの元へ訪ねるのは、子を成す為ではない。」

「いえ、あの……」

戸惑う黄杏は、信志から離れた。

「覚えているか?私達の出会いを。」


黄杏にとって、愛する信志との出会いは、忘れたくても忘れられない、一番大切な思い出だ。
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