宮花物語
「黄杏、そなた……」

「私の事は、お気になさいますな。王の初めてのお子でございます。」

信志は、黄杏の手を取った。

「私の初めての子は、そなたとの間にできた、この世に生まれる事はなかった赤子だ。」

「王……」

「男の子だったそうだな。産声をあげていれば、間違いなく私の跡継ぎだった。」

優しく微笑みかける信志に、黄杏の心は解きほぐされていく。

「では、また後で。」

黄杏の首に、唇を落とした信志は、次に黒音の屋敷を訪れた。


「ああ、信寧王様。やっといらっしゃってくれた。」

黒音に仕える女人が、女主人の懐妊に、心浮き立っていた。

「黒音。」

信志が声を掛けると、当の本人は寝台に、横になっていた。

「どうした?具合でも悪いのか?」

信志の声に、ようやく起き上がる黒音。

「し、信寧王様!」

酷く驚いた黒音は、袖で顔を隠した。

「今更、隠す事もあるまい。」
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