烏丸陽佑のユウウツ


「起きる前に帰ったのか」

「…え?…はぁ…はい。何でも知ってるんですね」

「今のは梨薫ちゃんからは聞いてない。あくまで推測、俺の勝手な想像だ。何でも知ってる訳じゃ無い」

そうするだろうとは聞いてたけどな。

「何も…、関係性のない者同士なんです。…まだ。逆に平然と朝、二人で珈琲なんか飲んでしまうようになったら…。もうそれ以上の発展は無い気がします。まさにそれって身内感覚です。…最近は、嫌ですけど…特に感じます。俺が稜の弟だと認識したからでしょうね。変に近くて、だから遠くなった気がします。正直…進展とか、…好きになってくれるとか、難しいんじゃないかって。…諦めはしませんけど」

「そうか」

はぁ…現実は厳しい、か。求めているモノが違う…て事か。梨薫ちゃんは弟として可愛がろうとしてるって。そっちの方向にもう成りつつあるのか。何より、そう本人が感じとっているからそうなのか。はぁ…恋の道は、儘ならないモノだな…。


「こんばんは」

「お。よお。いらっしゃい」

椅子の背に手を付き、前のめりに声を掛けられた。

「まだ、来てないみたいですね」

「そうだな、まだだな。待ち合わせしてるのか?相変わらず忙しいんじゃないのか?"彼"は。仕事もだが、モテ男だからな」

「あ。フフ。まぁ、それはどうなんでしょう」

「黒埼君、ちょっと悪いな、すぐだから」

「あ、はい。大丈夫です、どうぞ」

三つ離れた椅子に腰掛けた女性は、隣の椅子にバッグを置き、こっちを見て軽く会釈した。…ん、何とも、…美人だ。慌てて会釈を返したがぎこちなくなってしまった。
待ち合わせか…そうだよな。はぁ、俺もこんな風に待ち合わせとか、したいもんだな…。


「ダージリンクーラー?」

「はい。お願いします」

「店主が言う事じゃないけど、…沢山飲んで酔い潰れるなよ?モテ男に連れて帰られるぞ?」

「…フ。そうですね、そんな事もあったような無かったような…。大丈夫です。今日は一杯だけだから。あ、ごめんなさい?」

「別に。お気遣いなく」

「フフ」

ん?待ってるのは彼とは違うのか?


ドアが開いて、男の人が息を切らして入って来た。

「あ、居た。はぁ。紫、悪い、待たせたか」

紫と呼ばれた人の隣の席のバッグを持ち上げ腰を下ろした。

「もう…ちょっと大丈夫?こんなに急いで来なくていいのに。…フ。…全然待ってないから、時間通り。ですよねぇ?陽佑さん」

「あ、俺、バーボンを、お願いします。…はぁ」

ネクタイを少しだけ緩めていた。その隣から、女性は手で風を送っていた。

「了〜解。あぁ、今来たばっかりだ」


「ねえ、本当はお店の近くになってからちょっとだけ走って息を切らせたんじゃないの?」

「ん?馬〜鹿、そんな小細工わざわざするか」

「どうなんだか。フフフ」

「本当に走って来たんだって。貴重な時間、無くなるし」

「また戻るのよね…」

なんて、微笑ましくて羨ましい会話が聞こえて来た。相手の事、解ってるから言える冗談だな…。

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