烏丸陽佑のユウウツ
「ごめんごめん、黒埼君。何か飲むか?」
「あ、はい。じゃあ…ブルドックを」
「了解。どうにも…切ないところまで話したんだっけ」
「あ、まぁ。…そうですね」
「あのさぁ…あの二人、どう見える?」
「え?あの目茶苦茶モテそうな男性と美人さんですか?」
「そうだ」
「ちょっと…んー、彼とは違うのかなって。あ、それは陽佑さんと女性の話、ちょっと聞こえたから。でも雰囲気は凄くいいように見えます」
頷いた。
「元々は、ここで隣の席になったのがきっかけで始まった。今は“元彼”と“元カノ”だ」
「あ、え、じゃあ、別れて…友人になったって事?」
「それともちょっと違うのかな」
「じゃあ…今は大人の…関係?そこだけの繋がりみたいな?」
元恋人だからか、親密そうに見えたのは。
「いや、流石にそれは無いと思う。厳密には知らないけどな?無いと思う。…しないな」
「あ、じゃあ…」
どうして会ってるんだろう。
「別れてから、お互いの事がよく解ったって言ってたよ。…色々…あったんだ」
「今も思いはあるって事?」
「男の方は確実にあるし、出来ることならって…、思ってるだろ」
「…そうなんだ。だったら、また始めるって事もありじゃないですか?あ、相手の気持ちですよね」
あんなに自然体なのに。今の関係性は何でも無い、ただの知り合いになったって事?
「ん。彼女には今、彼が居るんだ」
「え?…別の?あ、言い方が変ですね、俺。別は当たり前だ」
「そう、そこに居る彼では無い、彼」
「ん?元彼ですよね、あの男性は」
全体的に小声という事もあって解り辛かった。
「俺も言い方が悪かったな。あの男では無い、男。今の彼は、俺の知り合いでもある男なんだ」
「こんな風に二人で会ってる事は知ってるの?」
言わずに内緒で会ってるかどうかは大事な点だと思った。
「ああ、勿論知ってるはずだ」
疚しい事は無いって事だ。
「でもこんなのって…妬かないんですかね」
俺なら妬く。それに、会って欲しく無い。心配だ。
「妬くだろ、好きなら当たり前だろ?だけど自由というか、したいようにさせてるみたいだ。何ていうか…凄く好きでも、駄目になる時には駄目になるって考え方なんだな。表には出さない情熱というか、紫ちゃんの事は堪らない程、好きは好きなんだよ」
「陽佑さ〜ん、ごめんなさ〜い」
「はい。あ、ちょっとごめんな」
「はい、大丈夫です」
それって…我が儘を許してるって事なのか。そんなタイプの人を束縛するのは難しいって知ってるからか。信じてるっていうのもあるよな。どうでもいいって訳では無くて、もっと大きく、見えないくらい大きなモノで守ってるって事か…。俺には無理だ。
「紫ちゃん達さぁ、つき合ってる時にはこんな風に飲みに来る事も珍しいくらい無かったのに」
「短い時間でも、ただ会うって事、それだけでも大事な事だって。それをしてなかったって…解ったのが後からでしたからね。俺が悪かったんです。で、今になって頑張って会ってます」
「…まぁ、簡単には言えないよな。色々あるさ。今は"友人"なんだから、真っ直ぐ送れよ?」
「解ってますって。静かに恐い人なんですから…殺されますよ、銀士榔さんに。じゃあ」
「じゃあ陽佑さん、また。おやすみなさい」
「あぁ、務君と今出たって報告しといてやるから」
「止めてくださいよ…。ロスタイムでもあったら何かしたんじゃないかって疑われますから」
「アハハ、報告なんてしないよ。じゃあな」