烏丸陽佑のユウウツ
「仲良しさんてな…そういうのとは違うだろ。知ってたのか?来てるって。…はい、…どうぞ、お客様」
「知りませんでしたけど。…有り難うございます」
「…なあ」「…陽佑さん」
…あ。
「何」
「抱きしめられたらドキドキしますかね…」
グラスに口を付け、置くと手で包んでいた。
「…は?急に…何。詳しく解らない話には応えられないな。誰の…誰との話なんだ」
俺の心臓は少し跳ねた。聞く事でもないだろ。そんなのドキドキするだろ。
「んー、やっぱり…するって言ってしたって…、それはちょっと違いますよね。…何も言わず抱きしめられるのとは」
だから…、聞いてる事を無視するなよな?誰の話だ…。何を突然…やって来て言ってる。そんな事を言う為にわざわざ来たって言うのか。
「陽佑さん…」
「…何だ」
「試してみようかな…なんて思って…」
「はぁ?ぁあ?」
…それは俺とって、事か。俺に話してるからそうなのか。違うなら誰と試すって言うんだ。黒埼君とは度々抱きしめられているらしいからな。今更、確認も何もないよな。
「でももうしません。こうして言ってしまってからでは、ドキドキしたとしても本当のドキドキかどうか解らないから」
「あのな…」
やっぱり俺とか。もうそんな風に言ってからでは駄目だな。こっちだって身構えてしまって、はいはいって、形式だけのモノになるさ。
「夢は夢だとしても…どうなのか、気になると確認してみたくなって…。フフ。それだけ、言いに寄ったみたいになりましたね。ご馳走様でした、帰ります」
戯れか…来た時から既に酔ってたのか?…いや、そんな訳ない事くらい解ってるけどな。じゃあ、何も言わずに実行してたら良かったじゃないか。…何だそれ、って話だ。無駄にドキドキさせやがって。
「…遅いから…気をつけて帰れよ…」
「はい」
はぁ、…俺を殺す気か。…急に来て何言って帰ってるんだ。本当、無駄にドキドキさせやがって。……具体的にははっきり俺とって言った訳じゃない、その部分はあくまでニュアンスだ…。だけど、あれは、俺と試すって、宣言したようなもんだよな?何だ…軽く手玉に取られた感じがするじゃないか。言うだけ言って帰りやがって…。何だよ、本当に…。
「…はぁ……梨薫ちゃん!…はぁ」
気がつけば、店を飛び出し跡を追い掛けていた。多分、間違いなくこれは衝動だ。
「陽佑さん…どうしたんですか…あ」
バッグを両手で後ろ手に持ち、コツン、コツンとゆっくり確かめるように歩いていた。呼び止めて手を掴んで引いた。
「…ん、はぁ。…ドキドキ…するのか?」
「え?」
少し息を整えた。
「黒埼君に抱きしめられたら、だ。いつもドキドキしてるのか」
梨薫ちゃんの口から直接知りたくもない事を聞いていた。確かめてどうするんだ。
「…あ、それは…。それなりにです。だって、黒埼君だって大人の男性ですから。不意に抱きしめられたら…」
「じゃあ…」
半身で話す梨香ちゃんの腕をそのまま引き、衝突するようにぶつかった身体を受け止め抱きしめた。
「あ…陽佑さん?」
「…俺は?」
抱きしめ直した。
「あ」
「…どうだ。…どうなんだ…」
「…凄く…うん…はぁ……安心します」
「……そうか、…解った。…もう、試さなくていいからな。気をつけて帰れよ。何かあったら連絡しろ」
…そうか、よく…解ったよ…。
「う、うん、大丈夫です。…陽佑さん、凄くドクドク、力強くドキドキしてます」
「当たり前だ。…中年前のおっさんがいきなり全力で走ったんだから」
身体を離した。
「あ…そうですよね。早く…戻ってください。また、お客さんにみてもらってるんでしょ?お店。…じゃあ…」
「ああ。………待て」
「え?…あっ…え?」
「これはどうだ…」