烏丸陽佑のユウウツ


…はぁ。部長さんのところにか…。聞いて今慌てたところでどうにもならないじゃないか。
まず、事情が解らない。対処のしようもないじゃないか。何か?急に結婚を前提に同居を始めたって事なのか?…もう?
それとも、暮らしてみないと解らない面もあるから、つき合うためにお試しに同棲するのか?
何にせよ、事実、一緒に居るって事だ。

はぁ、ついでに何か食うかな…。卵を取り出した。


軽く朝食を済ませた後だった。片付けをしていたらテーブルに置きっ放しの携帯が震えた。…はいはい。…店か?
ブー、ブー…。はいはい。あ゙、また黒埼君だ。…何だ、まだ何かあるのか。

【さっきはすみませんでした、取り乱して。部長のところに行くのは決定打ではなくて、仮の暮らしなんです。
梨薫さんの部屋、マンション自体が老朽化してたみたいで、屋上に結構なヒビが入ったらしいんです。それで、部屋の天井が雨漏りで徐々に染みて来たらしくて、修繕しないとって事になったらしいです】

なんだ…。ふ…ん、なるほどな。部長に決めて一緒に暮らす事にしたのとは違ったのか。…ふ~ん。初めのは随分と肝心なところが抜けた報告だったんだな。俺も決めたのかって思ってしまった。だけど仮とは言え、一緒に暮らしてなんていたら…いずれ流れでそうなってしまうんじゃないのかな…。仮ではなく一層のこと、ここに住めばいいだろうと部長さんは言うだろう。いい機会だ。
実質、一緒に居るのは夜から朝までで、四六時中という訳ではない。会社も一緒…いつも顔を合わす訳ではないけど。だけどな…自分に好意のある人間に甘えるのはな…。

【でもまずいですよ。そんな理由でだって、一緒に生活していたら、その内、なんて事になります、絶対なります】

誰だってそう考えるよ。

【黒埼君ちは駄目なのか】

【そう出来るなら最初からそうしてます。俺は駄目なんですよ。男の連れと同居なんで。そうじゃなきゃ絶対俺の部屋に来て貰ってます】

あー、そうだったな。

【残念だったな】

…。

【陽佑さんのところはどうなんです】

うちは…居られる部屋ならある。いの一番に思いついたと思うが、何も気兼ねせず居られる、店の裏の部屋があるのは知ってるし、俺の部屋にだって空いた部屋はある…。そんなのは承知されてる。でも言っては来なかった。

【俺の事は、遠慮したい、駄目だから、言って来なかったんじゃないのか?】

マンションの部屋事情も困ったと言って来ない。あれから、何一つ、連絡はしてないし、来ないんだ。…相談事なんて余計言って来ないだろ。
一番が部長さんだった…という事だ。俺はもうそんな相談相手でもなくなったって事だ。身内感覚としても用済みって事かな。だったら余計遠のくな。

【選択肢に俺はなかったって事だ。どのくらいの期間なんだ?】

一応聞いておくか。

【業者との兼ね合いとかで、予定はざっくり一月らしいですよ。早くなるかも知れないけど、あくまで長くなった事を見込んでの予定らしいですが】

一月か…かかり過ぎだろ。そんなに一緒に居る事になるのか。…間違いなくアウトだな。

【俺が陽佑さんのところに泊まるからって言って、みんなで一緒に泊まる事にしましょうか、合宿ですよ、三人で】

…はぁ。何を…突拍子もない事を…。

【合宿てな…学生の同好会のノリじゃないんだから。ぶっ飛んだ事を…。今更、決まった話を取り消す事なんか出来ないだろ。そもそもだ。その話は無理な話だって解って言ってるんだろ?】

…あ…俺が店の裏で寝泊まりして、梨薫ちゃんに俺のマンションを使って貰うってのも。は…何考えてんだ、最初から俺関連ではもうない話だ。“こっち”を望んでいるなら、最初から言って来てる話で、そうではないんだから。
…はぁ。知らなきゃ良かった事だな。もう、梨薫ちゃん関連で一々知らせてくるなって言おうか。

【梨薫ちゃんが俺の部屋を望んでない】

俺を望んでないんだよ。
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