烏丸陽佑のユウウツ
「…おぅ、いらっしゃったな」
「あ、陽佑さん!良かった、ちゃんと帰ってる…会いたかったです」
勢いよく店に飛び込んで来たと思ったら…。
「…おい」
これは何だ…。会いたかったからってここまでするか?
「はぁ、俺、仕事、今日は頑張って終わらせたんです、早く会いたくて」
だから…男の俺に言う言葉か。
「そうか、お疲れ様。おい、もういいか?」
「あ、はい」
何が?って顔してるけどな…。まあ、別にいいか。
帰る客をドアまで送って居た俺に、入れ替わるように入って来た黒埼君が抱き着いたんだ。
回されていた腕を解いた。これ、いつまでも離れないでいたら可笑しいだろ。…まあ、何でもありっちゃありな世界だけどな。黒埼君なりに、今日一日、一人では居ても立っても居られなかった、落ち着かなかったという事かも知れない。妙に懐かれてから…俺らは戦友みたいなもんだからな。
「何か飲むか?明日も仕事だからまずくなりそうだったら止めておくか?」
一杯や二杯でどうこうなる訳ではない、それは解っているが、話が話なら、ついつい深酒してしまうものだ。
「晩飯は?食ったのか?」
「いや、まだ何も。直ぐ来たので」
椅子に腰を下ろした。
「…フ。なんだ、本当に会社から直ぐ来たのか。空きっ腹に酒なんて…駄目じゃないか。じゃあ…、ちりめん山椒でおむすびでも作ってやるか」
「あ、いいですね。…おむすび、いいです」
「ん?」
「思い出のおむすびだなと思って。思い出は塩むすびですけど」
「…そうか」
「あ、そこは掘り下げないんですか?」
「ん?思い出なんだろ?…誰彼なく話すモノとは違うんだろ?大事にとっておいたらいいじゃないか。言いたきゃ言えばいいし」
「あ、は、陽佑さんらしいですね。んー…、いや、話しません。そうです、大切なエピソードですから」
差し詰め、梨薫ちゃんとの、だろ?まだ酔ってもないのに、今それをあれこれと聞いたら、ウルウルするきっかけになりそうだもんな。
別に部長さんに決まった訳でもないが…もう駄目だって思ってるところがあるからな。
出来た。嵌めていた透明の手袋を抜き取り熱いお茶を入れた。
「…はい、先ずは、おむすびと、それから…お茶だ」
我ながら綺麗な三角のおむすびが出来た。のりで挟んで二つだ。
「あー、お茶も、いいですよね…。あと、味噌汁があると、もう…」
…そうか、思い出には味噌汁もあったのか。
「…まあ、あれだ。涙が出る程旨いから。大丈夫だ」
「え?大丈夫って?」
「…思い出して泣いてもだよ。どっちで泣いてるか解らないくらい旨いから」
「あ。…はい……う」
「あ、は、もう来たのか?」
一つ手にしてがぶりとかじりついた。
「はい…あ、旨いです。少しピリッとするのがいい。…はぁ。…暫く部屋にも行けないんですよ?……ずっとになるかも知れない。まだそうなるって決まった訳じゃないけど…はぁ」
残りを頬張り、もぐもぐと咀嚼すると、熱いお茶を口にしてほぅと息を吐いた。
「…そうだよ、解らないだろ?」
それ程悲観的にならなくても…大体だな…会社で顔は合わせられるだろ?…。