烏丸陽佑のユウウツ
「そんな物があったのか」
「はい。偶然、俺だけが見てしまいました」
「今まで…まだ見たって事はないのかな」
「多分ですが、ないと思います。それは、兄貴がまだ生きている頃、梨薫さんの好きそうな映画を兄貴が撮り溜めていた物の中にありました。
観たい映画があるって、…部屋で一緒に観たんです。観終わったら、始まっていて。
梨薫さんは少し前から眠っていてその日見る事はありませんでした。俺はそれを持ち出しました」
「目に触れさせない為だな」
「はい。今頃になってこれを見て、また悲しい思いをする必要はないと思ったし…見て、俺が弟だという事をこれで知って欲しくなかった。梨薫さんの中から、弟だという事を理由に対象から外されたくなかったんです。…俺にとってそこが一番だったと思います」
「それで」
「部屋を借りている間は、持ち出したままにしておきました。別のDVDに兄貴のところ以外を撮り直して置いておきました。自分に都合のいい、勝手な行動です。部屋を借りていた日も終わって、出る時に、元のDVDと入れ替えました。今現在は元通りにしてあるんです」
「梨薫ちゃんなら、観て終わった物はもう観ないんじゃないかな。余程気に入った映画ならまた観ないとも言い切れないが。見たら見たで、それが運命だ。気に病む事は無いと思う。
梨薫ちゃんだけの運命じゃない。黒埼君のお兄さんとの、それが二人の運命だと思うよ。
見て落ち込んでも、現実は受け止めなければいけない。お兄さんが亡くなっていた事を知ったショックとはまた違うと思う。内容は知らないが、こういう物を残していてくれたんだと…今なら、愛おしく受け止められるんじゃないかな。映像に直接触れる事は出来ないが、生きていた…、お兄さんを見る事も出来る、声も聞ける。…堪らないとは思うよ。見たその時は苦しいかも知れないが、でも受け止められると思うぞ。
…辛かったら、その時は黒埼君が居るじゃないか、そうだろ?」
「…陽佑さん」
「大丈夫だ、支えられるだろ?」
梨薫ちゃんの事を好きだと言ってるんだ。支えてやれなくてどうする。
「…はい」
「大丈夫。…その時は、俺が黒埼君の力になるからさ」
そういう方法でないと、俺が直接何か出来る事はもうないと思うから。