烏丸陽佑のユウウツ
梨薫ちゃんはバーに来る事はなかった。不思議なもので、顔を見せない事にも慣れ、特に思い起こす事もなく日々が経過していた。
季節が巡るのは早いものだ。
寒くなりだしたと思ったら、もう季節は短い秋を過ぎ、冬になっていた。街中が前倒しで、あっという間にカラフルなイルミネーションに彩られる時期だ。
「陽佑さ〜ん、ここもツリーとか、大きなヤツ、飾るんですか?」
今夜も黒埼君は来ていた。
「いや。昔はしてたが、今はそこまではしてない。若い子ばかりが来て騒ぐ店ではないから。小さい卓上に置くサイズの物があるだろ?あれをテーブル席に置くくらいの事だ。カウンターにもな」
「そうなんですね」
「クリスマスの予定は?」
「はぁ、それ…聞かないでくださいよ」
「何でだ。クリスマスだろ。色々、策を講じるチャンスじゃないか」
…。この沈黙が物語っているんだな。
「も゙う…話せる事が無いんですよ。はぁ…」
そうなのか。
「上手くいかなかったのか」
「はぁ…。クリスマスだとか、別にこだわりたくないんですって。高いお店を予約したり、その日に限った熱量も嫌、とか言うんです」
「ハハハ、…らしいな」
フ、本当、梨薫ちゃんらしい言い回しだ。心とは裏腹な、な。まあ、イベント事は二人一緒に過ごした諸々の事があるだろうから…思い出したくないって事でもあるのかな。
「はい。普段通りに過ごすらしいです」
「一人で」
「だと思いますよ?」
「そうか?どうなんだ~?だったら、普段通りのご飯でいいから、ご飯作って食べさせてくださいとか言ったのか?」
「あ、いや…あ゙ー…引き下がりました…」
何やってんだ…。
「駄目じゃないか。こだわりたくないって言っても、何でもいい、何か買って、部屋に押しかけりゃいいじゃないか。何かされて嬉しくないはずはないからな。引いたら駄目なんだろ?きっと、もうって言いながらも部屋に上げてくれるさ」
「そうですよね…よし…よしよし、一緒に過ごせるように考えます」
「依然、目に見える変化ってないのか」
「そうですね。俺の位置って何だか固定されたみたいで。付かず離れずっていうんですか?縮まりもしないし、かと言って離された気もしないんですよね。…いいのか悪いのか、はぁ。やっぱり良くはないですよ…。どう考えたってこのままじゃ…」
「それって」
「あー、だから、言わないでくださいよ。それって……安定の弟、って事ですよね」