烏丸陽佑のユウウツ


「…ここ、来ないですか?」

「あ?あぁ、来ないよ、全然。悩みも何も、とにかく来る用は無いって事だろ。ずっと来てない」

…。

「部長さんとはどうなんだ?」

「…え?あー、そうですね。それなりなんですかね」

「なんじゃそれ」

「尾行してる訳じゃないんです。俺だって、いつも梨薫さんの部屋で待ってる訳では無いんです。いつ誰と出掛けたとか…解りません。俺に許可なんて要らないし、報告がある訳もないし」

「そうか。そっちもまだ急な進展はなさそうだな」

…。

「…待ってるんじゃないでしょうか。…違いますかね。はっきり解らないから。だから何も進め無い…。
はっきりしないからですよ。……陽佑さん。…違いますかね…」

…。

「焦れったくても、じっと待ってるんですよ」

「そうか」

「…は?……も゙う。誰の事を言ってると思ってるんですか…。別にいいですけど。お代わりください」

「はいはい。…なにも、黒埼君が苛つく事じゃないだろ?」

「……はぁあ?…もう。…ですね!人の事ですから」

「ハハハ。…はい、どうぞ。…もう終わった事だぞ?ていうか、何も無い事じゃないか」

「何とも思わないんですか?平然と俺に、あーしろこーしろとか言ってる自分に」

「思わないよ?」

「嘘だ」

「嘘じゃない」

「嘘です」

「嘘じゃないって。…あのな…そういうもんだって。今、黒埼君にアドバイス的な事を言っても、前もだけど、何とも思わない。特に嫉妬する事も無い」

「違います。嫉妬しないのは、俺に何もないからです。これが、もし、クリスマス、一晩中一緒に居ました…だけじゃなく、…とうとう一線も越えましたって聞いたらどうなんですか」

「フ。何とも?上手くいって良かったなって思うかな」

「はぁあ゛?だから、それが嘘ですって。これが事実じゃない、あくまで起きてない仮定の話だからそんな風に言えるんですよ」

「何言ってるんだ。事実として聞かされても同じだ。ライバルみたいなモノ、一人でも居なくなって、黒埼君的にはいい話じゃないか。俺にしたら、しつこくこだわる黒埼君の方が解らないよ」

「だって嫌でしょ。どちらも選ばないかも知れないけど、部長か俺を選んだとして、その後で、“誰か”の事を、やっぱりこの人の事が最初から良かった、なんて言われたら」

「黒埼君か部長さんか…こうと決めておきながら、やっぱりこっちの人が良かったと言う人間は、また更に月日が経てば同じ事を別の人間に言うだろう。そうやって人を振り回す…不誠実な人間だ。俺はそんな人間は信用しないし、遠慮する」

はぁ、どこに辿り着く話だよ。これだけ否定的に言っておけばいいだろ。

「決めても迷う事もあるかも知れないじゃないですか。…気を惹こうとしてわざとするかも知れない」

「迷ってるならまだ決めなきゃいいんだ。それは決められた相手を侮辱している。失礼だ。無理に決めなきゃいいんだ。…解り辛くて、振り回されるようなのは面倒臭いんだ…本当に。それにつき合うだけの、こっちに強い熱がない。もう、そんなモノは無い、…出来ない。この話は終わりだ」
< 60 / 105 >

この作品をシェア

pagetop