烏丸陽佑のユウウツ


俺は月曜の夜、黒埼君に抱き着かれた。それはどちらかになったという決定的な意味のあるモノではなかった。

結果を言ってしまえば、梨薫ちゃんがインフルエンザにかかってしまって、部長との約束も消えたという事だ。
うつしてはいけないから、部屋にも来ないでと言われたらしい。

週の中頃から体調が悪くてインフルエンザだと判明した。…らしい。のだが。…どうなんだ?…。
とにかく、今日迄、休みらしい。

「喜んでいいんですかね。一過性のモノだし、何だか、土俵に上がれなかった気分です」

「もう潜伏期間も終わってるだろ。ここに来てないで行ったらどうだ。明日から仕事に出るつもりなら、寝ている事も無いだろ」

「大丈夫ですかね」

「病気の時には女性は訪問して欲しく無いだろうけど。まあ、風呂にも入れないような状況はもう過ぎてる事だろうし、普通に考えたら、普通にして居ると思うけど?今更、すっぴんがどうのこうのいう仲でもないだろ?」

「はい。風呂上がりの顔は何度も見てるんで」

「だろ?だったらそこもクリアじゃないか。早く行かないと、会える状況になったんだ、部長さんの車がもう乗りつけてるかも知れないぞ?」

「直ぐ行きます。そうやって、直ぐ煽るんだから。でも、有り難うございます」

ハハハ、現金だな。

「ああ、じゃあな」

「はい」

インフルエンザね…。怪しまれないように徐々に体調が悪い振りをして…俺は究極の嘘だったと思うがな…。


ブー、何だ。

【居ません。ピンポンしても出ません】

もう着いたのか、速いな。冗談のつもりで言ったけど、これは、本当に連れ出されたかな。

【そこそこ遅い時間になったら帰って来るんじゃないのかな】

【そうですよね。これって、やっぱり部長ですよね。病み上がりに無理なんてさせませんよね】

病み上がりね…無理ね…。ま、あ。何があるのか知らないけどね。

【そうだな】

男女の事だから解からないけどな。

【俺、待ってます】

【夏じゃないんだから、カイロくらい買って貼っておけよ。夜、外は冷えるから】

【陽佑さん…。俺、コンビニに行ってきます】

【あぁ、頑張れ】

【はい!】

ふぅ。また走ってるのかね~…。


「オーナー」

「あ、悪い」

「いえ、あの、御指名です、お客様の。…烏丸さん居ますかって言ってくれって」

「ん?はい、了解」

裏に下がっていた俺は店内に戻った。御指名?…誰かな…。御新規さんか?


…あ。

「こんばんは」

「…いらっしゃい。随分、御無沙汰ですね。驚きました」
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