烏丸陽佑のユウウツ


「どうぞ、こちらに。何に致しましょうか」

「...アプリコットフィズ、お願いします」

「畏まりました」

…アプリコットフィズ、ね。


「どうぞ」

「有り難うございます」

…。

「お誕生日ですか?」

違うよな。

「違います」

座った横の椅子にオールドローズの大きな花束が置かれていた。
いい感じの派手ではないベージュがかったピンク色、センスのいい花束だ。

「何も出来なかったお詫びにと、頂いたモノです」

「そうですか」

「何も聞かないんですね、それ以上」

「まあ、そうですね。そちらから話さない場合は、それ以上は立ち入ってしまいますから、こちらからは伺いません」

「そうですよね、…いつも、そう…」

「はい」

…。


「ご馳走様でした。……呼んで貰う時、従業員の方に、私だって言わないで、とお願いしました」

「そうでしたか。おやすみなさい、寒いです、身体にお気をつけて」

「…有り難うございます」

結局、あれ以上の会話は無く、帰っていった。
何の為に寄ったのか…。多分、部長さんと会って貰った花だ。それを持ったまま寄るなんて…はぁ、面倒臭い事をする…。


ブー。

【梨薫さん帰って来ました。じゃあ、また後で】

はぁ、真っ直ぐ帰ったんだな。


「あはー、陽佑さ~ん」

「は?どうした。随分と早い御帰還だな」

黒埼君がまた戻って来た。

「帰ってくれって言われました。やっぱり出掛けてたんですよ、部長と。こ~んな大きな薔薇の花束なんか持って帰って来ました。折角、背中にカイロまで貼って寒さ対策して待ってたのに」

誰に遠慮する事なく、バリバリと音を立てて剥がし始めた。
居たくても粘れなかった、いつもとは違った、そんな雰囲気だったんだな。

「それ、こっちに貰おうか。捨てよう」

「あ、すみません、有り難うございます」

剥がしてまだ熱いカイロを受け取った。これがすっかり冷え切ってしまう迄待つつもりだっただろうに。早く帰って来た迄は良かったのにな。

「…さっき、黒埼君が来る前、ここに来た」

「え?梨薫さんがですか?」

「ああ」
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