烏丸陽佑のユウウツ


眠気に襲われる事もなく、そこそこ居て帰る事にした。

フードのダウンを手に外に出た。

はぁぁ…寒…。まだ大した寒さじゃないけどな…。
無防備な身体にはこの程度の寒さでも染みるね…。
なんで着ないで出たんだよ。思考回路、働いてないんだな。
鍵をかけてコートを着た。

…軽い不眠症か。特に寝た記憶も無い。平気っちゃ平気だ。
ポケットに手を入れ歩いた。

…。

場所が変わるだけでマンションに帰ってもまた一人…。こんな事、考えてみた事も無かったな。

仕事が終わればとにかく横になりたくて、勢いで帰ってたようなもんだった…。ま、今もそうなんだけど。


はぁ、着いた。歩いてりゃその内着くわな。

エントランスには天井に届きそうなツリーが今年もイルミネーションを点滅させていた。飾りの少ないシンプルな大人仕様だ。
明日には片付けられてしまうな。


エレベーターを降り部屋に向かった。

鍵を取り出し開けた。

……ん?何かあったような…。
うっかり踏んでしまった。確かに何かがあったような気がした。

足を退かせて見た。

あぁ…花びら、だ。

それはスモークがかったピンク色の花びら。
踏まれて斑に色の変わった薔薇の花びらだった。

心臓がトクトクと早まった。
拾い上げた。踏んだせいだな。香りが濃くした。

…来たのか、ここに。これって、そうだよな。……はぁ。…。天を仰いだ。
なんでだ……はぁ。

クリスマスだから、どこかの部屋の人物が花を貰って帰って来たのかも知れない。この花びらが梨薫ちゃんの持っていた薔薇かどうかは断定出来ない。
だけど、世の中の流行りがクリスマスにオールドローズの花束を渡すなんて事にもなっていない。

誰も彼も、身近で同じような花を持ってうろつくなんて被り、そうある事では無いだろう。
ましてそれが俺の部屋の前で偶然落ちる事もだ…。

店を出た後、真っ直ぐここに来た。居ないって解ってるのに来た。誰かが入る時に一緒に入ったのか。こんな日だ。花束を抱えていた。上手く入れたのかも知れない。

ここで待つつもりだったのか、…俺の帰りを。一枚だけ花びらを千切り、来ていたという事だけを教えたかったのか。んー…だとしたら。そんなところに、俺がしたメールって事か…。黒埼君が待ってるから連絡しろって。意にそぐわない、しかも偉そうなメールだ。

…。

はぁ…全部推測だ。都合のいいな…。
どんな感情であっても、メールを待っても、何一つ、言って来なかったじゃないか…。
< 72 / 105 >

この作品をシェア

pagetop