烏丸陽佑のユウウツ
「俺、初めてだったんですよ」
…何?君は、まだ…未経験だったのか?…それは悪戦苦闘、大変だったな…。まあ、そんな事もぶっ飛ぶか。
「クリスマスって、イブに結構盛り上がるじゃないですか。今回は、それすらも無理で…。
だから俺、陽佑さんの助言通り、特別な事はしないけど、梨薫さんちに行く前に、夜中開いてるケーキ屋さんに寄ってケーキを買って、ずっと待つつもりでいたんです」
…クリスマスの夜の事だな。
「梨薫さん、帰って来ました。陽佑さんがメールをくれて、あれから直ぐです。薔薇を持ったままだったから…一度も部屋には帰ってなかったんでしょうね」
んー…、思い出すな…。
「後ろにケーキの箱を隠して立ち上がった俺を見て走って来て…はぁ。何て言ったと思います?
…馬鹿ね、いつもいつも、こんな事して。今は寒いのよ?本当に何してるのよって」
…はぁ、微笑ましい、いい雰囲気の話だ…。
「…抱きしめられました。……寒いーって」
…は?…あ、うっかり声が出てなかっただろうか。
「ハハハ、ま、そこが梨薫さんぽいってところなんですけどね。とにかく入ってって、すんなり入れてくれました。…まあ、自分が寒かったからでしょうね」
フ…何だか…盛り上がったような…そうでもないような、だな。
「病み上がりだし、ケーキだって食べてないでしょって言って渡して…二人で食べました。抱き着かれちゃった拍子に俺も腕を回したから、ちょっと中で崩れちゃってましたけど」
まだまだ続く話だよな。この程度で顔が緩みっぱなしになる訳じゃないだろ。
だけど、寒かった、とはいえ、梨薫ちゃんから抱き着いたという事は嬉しかっただろうな。
「…俺、誕生日、26日なんですよ」
「おー、それは知らなかった。遅ればせながら、おめでとう。一つ、追いついたな」
「え?あ、はい。そうですね…有り難うございます」
おっさんについでに言われても…嬉しか無いだろうが。
まあ仕方ないな…なんて言っちゃ駄目だが、お祝いだ。
シャンパンを出した。
「奢りだ」
「お。う、わ、有り難うございます」
どうせ今から聞かされる話も、めでたい事なんだ。
お祝いだよ、諸々の。
「俺も貰うぞ」
「はい」