烏丸陽佑のユウウツ


【地味な色柄?】

【まあ、地味というか、シックな色合いのやつだ】

写真を撮って送ってやった。

【間違いないわ、私のよ。前に海で会ったの。朝、早い時間だったし、その日は特に肌寒かったのよね。
だけど武下梨薫さんは軽装だったから貸してあげたの。その時の物よ、それ】

…言われてみて思い出した。よく見れば見覚えがあった。これは、あの日、店の裏に来た時、していた物だ。

【解った】

【ねえ、今どこ?別宅?】

【ああ、そうだ】

そんなに直ぐ移動しないから…。

【そう】

ぁ…何だよ。たったそれだけか。

【これ、要るのか?】

【要るとか要らないとか、特に急いだ事も無いし、貸した段階でもうあげたつもりだったから。ほら、会う事って無いじゃない】

【じゃあ、どうする?俺、今から神社に行くけど】

【じゃあ、私も行くから持って来て】

【解ったよ】

…はぁ。…梨薫ちゃんはここに来てた。…そうだよな。何してるんだ、全く…。
会いたいと言って来たのはこの場所からだったんだ…多分。
何でこんな事を…。何でって、事じゃないか…はぁ。
ここに来てるの、って、言えない状況にしてしまった…か。


神社で参拝を済ませた頃、母さんが来た。

「はぁ、寒いわね。おめでとう」

ゲンも一緒だった。寒いわねと手を擦る横で止まったゲンの息も白かった。

「うん、おめでとう。…あ、これ」

「はいはい有り難う。やっぱりあの時のね。ねえ、ゲン連れてて。私もお参りして来るから」

紙袋を渡してゲンのリードを受け取った。頭を撫でた。ゲンは大人しく腰を下ろした。抱きしめたら暖かそうだ。


「持って来て置いて帰ってたって事?」

「んー?…みたいだな」

よしよしとゲンを撫でていた。

「何も言わないで黙って?わざわざこの為に、ここまで来たのかしら?
武下梨薫さんも、今年の事は今年の内にって事だったのかしらね…」

チラッと顔を確認された気がした。…何だよ。

「さあな…」

今年っていうか、正確には年は明けてたよ。どうでもいいけど。

「もう…何してるのかしらね」

「…知らないよ」

「貴方よ」

「俺?」

「そうよ、俺よ。…いいの?ね~、ゲン~」

「…いいんだよ、なあ、ゲン~」

代わる代わるよしよしと撫でまわされてはゲンだっていい迷惑だ。それでも嫌な顔はしない。…よしよし。

「そう。ねえ、いつまで居るの?」

「今日帰るつもりだ」

「あら、もう仕事始めちゃうの?」

「いや、仕事はまだだ」

「そう。あ、リード、頂戴」

「ん?ああ。じゃあな…」

「仕事だけに生きる事にしたの?」

「あ?生きるとか、だけって訳でもないけど。はぁ…、今は適当が合ってる気がするよ」

「そう…。何でもタイミングだから。じゃあ、おみくじ引いてから帰るから、ここでね。有り難う」

「ああ、じゃあな。…風邪ひくなよ?」

「…あらあら。はい、じゃあね。大人なんだから、後悔なく生きる術は知ってるわよね?」

「ああ、知ってるよ」

後悔はしない。
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