番犬男子
脱走失敗を認めたくなくて、俯いた。
バイクが、あたしのそばで緊急停止された。
うん、やっぱり、素通りはしてくれないよね。
1台のバイクに、乗っていたのは運転者1人で、後ろには誰も相乗りしていない。
相手が1人だけなら、なんとかできるか?
でも、もうすぐ強盗犯とバイク男が追ってくる。
あたしはケンカもできないし、足もそんなに速くないのに、どうやって3人をかわす?
囲まれたら終わり。
袋のねずみ。
まさに、それ。
冷静に考えろ、あたし。
打開策は、きっとある。
そうだ、こうなったら、言葉巧みに魁皇内で翻弄させて……。
と、ここまで思考を巡らせて、たった0.1秒。
その直後。
「千果!?」
今あたしのそばでバイクに乗っている人に、名前を呼ばれ、思考回路にストップがかかる。
想像していたよりもずっと優しく、乱れた声だった。