番犬男子
善人ぶるヒーローを気取っても、無意義だ。
仮にならなくちゃいけない決まりがあったとしたら、お兄ちゃん限定のヒーローになる。
「遊馬は行かないの?」
「……ははっ、愚問だな」
わざとワードを重ねた遊馬の口が、ゆるり、弧を描く。
だと思った。
「行くぞ!」
「うん」
悲鳴はひとつのみだったが、動揺と狼狽が広がってしまった繁華街を、サングラスを外したあたしと遊馬は全力で駆けていく。
興味本位でコンビニ方面に流れていく人たちをかき分けながら。
走りながら、遊馬が言う。
「俺、お前のそういうとこ、好きだぜ」
「それ以外は好きじゃない、って言ってるように聞こえるけど?」
「えっ、ち、違ぇよ!」
「ふふ。わかってる。ありがと」
さっきあたしをからかった仕返しだよ。