番犬男子




善人ぶるヒーローを気取っても、無意義だ。


仮にならなくちゃいけない決まりがあったとしたら、お兄ちゃん限定のヒーローになる。




「遊馬は行かないの?」


「……ははっ、愚問だな」



わざとワードを重ねた遊馬の口が、ゆるり、弧を描く。


だと思った。



「行くぞ!」


「うん」




悲鳴はひとつのみだったが、動揺と狼狽が広がってしまった繁華街を、サングラスを外したあたしと遊馬は全力で駆けていく。


興味本位でコンビニ方面に流れていく人たちをかき分けながら。




走りながら、遊馬が言う。



「俺、お前のそういうとこ、好きだぜ」


「それ以外は好きじゃない、って言ってるように聞こえるけど?」


「えっ、ち、違ぇよ!」


「ふふ。わかってる。ありがと」



さっきあたしをからかった仕返しだよ。




< 294 / 613 >

この作品をシェア

pagetop