ひかるはその場に立ちすくむことしかできなかった。

「何も言わせてもらえなかった…」

ひかるはそう呟くと、息を吐いた。

デートに誘い出すことに満足したのか、伊崎は勝手に約束を取りつけるとその場から立ち去ってしまった。

「あー、どうしよう…」

ひかるは窓の外に視線を向けた。

雲1つない青空に、ひかるは息を吐きたくなった。

「日曜日、雨でも降ってくれないかな…」

そうすれば、伊崎とのデートはなくなるはずだ。

(次に伊崎さんが来店したら、ちゃんと断ろう。

“好きな人がいるから、あなたとはつきあえません”って、ちゃんと返事をしよう)

澄み渡った青空を見ながら、ひかるは思った。

同時に、ひかるは豪にあの頃に伝えることができなかった気持ちを伝えようと思った。
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