だから、笑って。



男の子が去っていった。




「ほんっと危なかったけど、助かってよかったわ。・・・菜乃花?」




「・・・っ」

コンクリートに黒いしみがぽたぽたとつく。


私は安堵のあまり、涙が零れ落ちた。







凜くん、変って思ってるよね・・・。でも、どうしよう。涙は止まりそうになかった。







交差点で凜くんが飛び出したとき、これがお兄ちゃんが体験したことなんだって実感した。




大きな鉄の塊の前に飛び出していく勇気。





お兄ちゃんはあの時、どんな思いでこんな大きい道路に飛び出していったんだろう。










「うっ、うっ」






私はいつも、守られてばかりだ。



お兄ちゃんみたいに、凜くんみたいに勇気が出ない。





自分の情けなさに、さらに涙は溢れるばかりだった。





そんな私の涙と比例するように、空から無数の雫が落ちてきた。







それらは私の涙と混ざり合うようにしてコンクリートに染みを作った。




雨だった。


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