だから、笑って。
「とりあえずここで雨宿りしよう」
雨が公園の中にある東屋の屋根を強く叩いていた。
遠くでは雷が鳴っていた。
涙と雨とがぐちゃぐちゃに混ざって、多分今ひどい顔してる。
凜くんは何も言わずにただただ降りゆく雨を見つめていた。
「・・・あのね、実は私・・」
「言って辛くなるなら、言わないほうがいいよ」
違う・・・違うの。凜くんだから言えるの。言いたいの。
私は木のベンチに腰掛けた。
「私、お兄ちゃんがいたの」
スカートは少し湿っていて、少し気持ちが悪かった。
「お兄ちゃんね、私の笑顔がいつも大好きだったの。一度、河原で私が一人で遊んでて迷子になったの。日も暮れて暗くなってきて、変な鳴き声の虫が近くで鳴いて怖くて、泣いてたの。そしたらヒーローみたいにお兄ちゃんが探してきてくれて。
私はほっとしてさらに涙が溢れてきたんだろうな。ずっと泣いてた。そしたらお兄ちゃんは必ず言うの『菜乃花は誰よりも笑顔が似合ってるよ。だから、笑って』って」
「・・・いいお兄ちゃんだな」
「うん・・・そして、ある日お兄ちゃんは交通事故で怪我を負ったの。さっきみたいに子供を助けようとして車に轢かれた。・・そして、その知らせを聞いた私と両親はすぐに病院に行った。お兄ちゃんの前で私が涙を流すと、その涙に答えたかのように意識不明だったお兄ちゃんが意識を取り戻した。そして、彼は私に声を振り絞ってまた言うの。『笑って』って。それがお兄ちゃんの最後の言葉。・・その三日後に容体が急変してお兄ちゃんはそのまま死んじゃった」
「・・・」
「・・・あれから、大切な人がいなくなることの辛さ、重さを知ったの。そして、私は何があっても笑うようにしているの。不謹慎だけど、お兄ちゃんの通夜でも涙をこらえて笑ってた。そうすればお兄ちゃんが喜んでくれるような気がして」
「ほんっと、ごめんね・・。さっきから泣いてばかり・・・」
私は精一杯笑ってみせた。
うん、もう大丈夫。
大丈夫。
雨足が、少しだけ弱まったような気がした。