友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「今日もタクシーだなあ。まあ、明日土曜日だからいいけどさ」
うんざりというように、吉崎がつぶやいた。
「俺、彼女に『今日も遅いから』っていうと、めちゃくちゃゴネられるんだよ」
「あー、そういうの、ないな」
琢磨はいう。
「うらやましいぜ。毎回ご機嫌取るの大変だからな」
吉崎はそう言いながらも、そんな彼女が可愛くてしかたないのか、無意識にニヤニヤしていた。
琢磨が帰宅すると、のぞみは大抵電気を真っ暗にして、ぐーぐー寝てる。
真尋なら……。
ついそんなことを考えて、琢磨はげんなりした。
いい加減、あの女から思考を引き離さなくちゃならない。
真尋とは、会社で出会った。
経理部の女で、社内パーティのときに声をかけてきた。
緩やかにウェーブした長い髪に、線の細い顎のライン。優しく笑う、美人だった。
まさか入社してからずっと、部長の愛人をしていただなんて。
つゆほども疑わなかったのに。
どす黒い膿が、体の内側を満たしていく感覚。
こんなに汚くいやらしい思いに自分が支配されるとは、昔は想像だにしなかった。
「やだな」
つい口に出る。
「何?」
吉崎が尋ねたが、琢磨は無言で首を振った。