友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
しばらくすると「ほらっ、いらしたわ」と野橋さんの甲高い声が耳に入った。
ラウンジに目を向けると、向こうから一人の男性が歩いてくる。ツイードジャケットに白シャツ。
「あれ?」
のぞみの口から声が漏れた。
近づくにつれ、男性も驚いたような顔をした。
「桐岡!」
のぞみは勢い良く立ち上がった。
野橋さんが、仰天したように目をまん丸くする。
「芹沢? マジ?」
ポケットから手を出して、桐岡はのぞみを指差した。
「お前、何、見合いなんかしてんだよ」
「そっちこそ」
野橋さんは二人を交互に見て「お知り合いなんですか?」と恐る恐る尋ねる。彼女の頭の中は、すでに「失敗」の二文字が浮かんでいるのかもしれない。
「高校のときの、同級生です」
桐岡が答えた。それからのぞみを見て笑う。
「なんだ、その格好。笑える」
「うっさいよ」
「ガサツを絵に描いたような女なのに、サーモンピンクって。誰セレクション?」
「野橋さん」
のぞみが言うと、野橋さんは気まずそうな笑顔を見せた。それから仕切り直しというように、姿勢を正す。
「お二人は同級生ということなので、堅苦しいお話はやめましょう。積もるお話もあるでしょうから、この後お二人だけでお時間を……」
野橋さんが言うのを「そうですね」と桐岡が頷いた。