友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

「結婚したいの?」
のぞみはお通しを口に放り込みながら尋ねた。

「むしろ、したくねー」
桐岡がうんざりという顔をする。

「女とか、もう、いいんだ」
「何それ。話と行動が矛盾するんですけど」
のぞみは鼻で笑った。

「お前だって、やる気のねー感じ出して、あそこに座ってたじゃないか。なんで結婚相談所なんか登録したんだよ」
「だってさ」
のぞみは肘をついて、うなだれる。

「あの田舎だよ? 結婚しないってことの重圧、半端なくない?」

桐岡が頷く。
「完全同意。俺も母親の圧力に屈してお見合いしたんだ」

「でもわたし、30連敗中だから、もうやる気もなくなるじゃん」
「30連敗? マジ?」
「マジ!」

桐岡がお腹を抱えて笑いだす。

「すげー、そんなやついるんだ」
「ここにいますよ。くそ。ビールもう一杯!」
のぞみはやけになって、ジョッキを高々持ち上げた。

「芹沢はなあ、いいやつだけど、女じゃないからな」
「うっさい」

のぞみはおしぼりを桐岡に投げつける。

「もういいんだ。結婚なんてしない。老人ホームに一人で入る」
「はは、寂し」
「桐岡もでしょ! 女とかもういいって、それじゃ結婚なんてできないじゃん」

そう言うと、桐岡は「はああああ」と大きくため息をついた。
ジョッキ片手に机に突っ伏する。

「女、怖いよ。ほんと怖い」
「なになに? どした? よほどひどい目あった?」
「もうひどい目どころじゃねーよ」

桐岡は涙目になっている。

「結婚の約束して、俺、品川にマンション買ったんだ」
「すごっ。さすが広告会社エリート」
「でも、ずっと二股かけられてたんだよ。相手は俺の上司。しかも不倫。しかもしかも、そっちが本命で、俺がキープ」
「フィクション?」
「フィクションなら、少しは笑えるか?」

のぞみはかわいそうになって、桐岡の頭を撫でた。

「笑えないね。かわいそうに」
「俺もう、恋愛二度としない」
「まあ、そうなるねえ」

二人でため息をつく。

田舎の結婚事情。
東京に出てきているとはいえ、そのしがらみからなかなか解放されない。
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