永く青い季節 〜十年愛〜


それでも、全く予想外の夢のような数日間は、彼の姿が目の前から消えてしまった途端に、きっと嘘だったんじゃないかと思ってしまう。

明日、明後日、と朝目覚める度に、私が抱いた勝手な幻想だったと思ってしまいそうで…
離れてしまうのが怖くてたまらず、涙が零れた。



ドアが開いて、降りる人と入れ替わりに乗客が一人二人と乗って行く。

彼がドアの中に入っても繋いでいた手は、鳴り響く発車のベルと共に自然に離れた。



動き出す列車について、少し歩きながら彼に小さく手を振った。
ガラス越しの彼は、すぐに見えなくなってしまったけど、私はテールライトが見えなくなるまで見送っていた。
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