God bless you!~第6話「その手袋と、運命の女神」・・・文化祭
霊感占い
1つ先隣の3年3組を恐る恐る覗き込んだ所、すぐ永田会長に見つけられた。
「生徒会カードが揃い過ぎだろ」と笑われる。「え?たった2枚ですよ?」
そこに、「チケット、とりあえず100枚。印刷したよ」とそこにタイミング良く(?)阿木がやってきた。「……揃い過ぎです」
阿木は、3年クラスでも自然にタメ口で永田会長と接しているようだ。それを周りの3年も自然と受け入れている。公認とは、かくあるべきだな。
「食っていいぞ」と、寄越されたお菓子をつまみながら教室を見渡せば、紫やら赤やら毒々しい色のカーテンでいくつかに仕切られている。豪華なベルベットの椅子がドーンと真ん中に鎮座していて、まるでムダに装飾を施されたヴェルサイユ宮殿の大広間であった。
「そんなイメージだな」と先輩男子が悦に入っている。(ホメた訳ではない。)
「ここって、何やるんですか?」
そこで、イーゼルに立てられた看板を見せられた。
〝激当!霊感占い〟
インクが溶け流れて、文字通りに怪し気な、手作り感満載の看板。
聞けば、占い作業をするのは1人だけ。
「俺らはセット作って盛り上げるだけ。楽だろ」と、永田会長は仰いますが。
俺は、阿木がパソコンでこしらえたという占いのチケットに目を留めた。
「1枚2000円って、高くないですか」
「それぐらいじゃないと納得しないんだって」
永田会長に替わって阿木の言う事には、納得しないのは〝客が〟ではなく〝占者が〟らしい。
そこで、おもむろ、「バレー部って、ステージで何やるか聞いてません?」
永田会長は首を傾げた。
「何でバレー部員にそんな事を訊かれんの?そこから分かんないけど」
3年の間で何か伝わっているかと思って……と、これまでの経緯を話した。
「まさか、そんなあたりを占ってもらおうとか思ってる?」と、笑われて、
「いや、そんな訳無いですけど。でも追い詰められたら、そこまで暴走してしまいそうな未来なら……俺にも見えます」
やれやれと、永田会長は肩をすくめた。
教室の外から、聞き覚えのある声がする。それが次第に近付いてくる。俺は永田会長と阿木にそれとなく合図を送って……というか許しを乞うみたいにお願いして、教室の隅っこの仕切られた一角、白いカーテンの中に慌てて隠れた。
カーテンの隙間から覗いていると、そこにやって来たのは、右川だ。
驚く事に、桐生も一緒になって入って来る。
先輩に向かって、「らす♪」と、右川は、さっそく舐めた態度でカマした。
桐生は緊張気味に、ぺこぺこしている。
格付け上位の常連と、最底辺の女子。珍しい、そして対照的なコンビ。
「桐生先生、2000円貸してね♪」
うっかり笑いそうになった。
桐生はサイフ代わりに使われている。
わずかな隙間から様子を窺うと、まるで漫才コンビのように、サッカー部ジャージ姿の桐生と制服姿の右川が仲良く並んでいた。凸凹コンビもいいとこだ。いつでも寒い漫談やれるゾ。
右川の手は相変わらずのゴム手袋で、まだ準備中だというのに随分やる気満々、「早く早く♪2000円」と桐生を突いた。
500円の入場料にケチを付ける分際で、2000円なんかに手を出すなよ。
桐生は無邪気に騙されて、このまま言いなりになってしまうのか。
「ここは2000円払っても惜しくないんだってば。マジで霊感のある人がやってんだから」
だから前評判が高い。
だから値段が高くても人が殺到。
だから2000円なんて安いもんだよ♪
へぇ~、そうなのか。良く知ってるな……感心してる場合じゃない。
「貸せと言うからには、いつかは返してくれるんだよな」
疑いながらも桐生は説得されてしまったようで、渋々ではありながら、そのゴム手に2000円を握らせた。
やっぱりというか永田会長に、「右川さん、その手、どうしたの」と訊かれて、
「恋のおじさんま♪」
パターン尽きた!うっかりツッコミそうになって、隠れていながら前乗りになってしまう自分が哀しい。
そこに、ド派手な衣装の女子?が、まるでお目付けのような男子を2人従えて、教室に入って来た。
「コンセプトは〝アラブ石油王の愛人〟よ」
だそうだが、羨ましいのか見苦しいのか分からない微妙な位置づけである。
それは全身真っ赤な長いドレスで、メイクもかなり作り込んでいた。この次、素顔で出会っても、きっと分からない。その服はどこで売ってるんだろう。
「なぁに?明日が待てないの?」と、やる気満々で座り込む右川を見ている。
「まーこれも縁という事で。んじゃ、第1号。やっときますか」
占物女子は、衣装に負けないド派手な椅子に腰掛けた。
爛爛と目を輝かせる右川の目の前に、占者女子はしばらく何かを念じながら(?)目を閉じ、カードを握りしめ(?)、しばらく考え込み(?)、その次目を開けたその瞬間、表情が険しくなったかと思うと、そこから一気に喋り始める。
「〝これは私の口を借りて宇宙から、あなたに伝えられるメッセージ〟」

〝甘えると……失う。
やり過ぎると……歪む。
お金の切れ目が縁の切れ目。
運命の女神、あらわるまで待て〟

誰の声も聞こえて来ない中、
「お金……」
唐突に右川が呟いた。
そのお金は別として、これって、ずばり俺の事じゃないか。
甘えられて嫌気が差し、フラれたとヤラれ過ぎて、かなり歪んできている。
「その運命の女神って、誰?」と、占者女子先輩に向かって右川はタメ口。
「あんた見た目サイズほど可愛くないわね」と返り撃ちを喰らうが、先輩女子は本気で気分を害したという様子ではない。
「しょうがないよ。あの右川先輩の妹だし」
永田会長が笑うと、その先輩女子は「え!」と大層驚いて、
「……聞かなきゃよかった。これ貰えないよ」と、2000円を右川に返した。
この占者女子は、右川の兄貴と一体どんな因縁があるのだろう。
「いらない♪」と、右川から乱暴に戻された2000円を握りしめた桐生が、「オレもいいっすか?占ってもらって」と、やる気満々で、その2000円を占者女子に返り撃ち。
桐生が、そんなオカルトに興味がある人種だとは思わなかったので意外だ。
これは私の口を借りて宇宙から、あなたに伝えられるメッセージ……同じ謳い文句の後、

〝傷付け。傷付く。
……それが、贈り物。
同じクオリティの持ち主。
運命の女神、あらわるまで待て〟

「俺って、どうしたらいいの?右川ぁ……」
「だーかーらー、あたしに任せろってばよ♪」
ポン!と音がした。
右川が桐生の肩を叩いて励まして(?)いるらしいが。何だか全貌が見えない。右川と桐生がどうこうという状況ではないらしいが、こうなってくると、普通に興味が沸いてくる。
桐生と同じクオリティの持ち主とは?
傷付け合う、相手とは?
それって、誰だ?
桐生が俺に相談したかった事とは、ずばり、その女子の事ではなかったか。
まさか、今も藤谷?それなら俺の現状を気にする事には合点が行く。
だが、藤谷と剣持が付き合い始めたのは周知の事。
そして、それを何で右川なんかに相談しているのか。
ラインを交換しておいて、本当に良かった。
「ところで右川さん、会長どうすんの?やってくれる?」
永田会長直々のダメ押しである。
「だーかーらー、あたし沢村くんにフラれちゃったんでぇー、はい消えた♪」
「その言い方が兄貴そっくり」と占者女子は苦々しい表情でカードをきった。
「面白いことになりそうだったのに、残念だなぁ」と、永田会長はため息。
それを横で聞いていた桐生が、「じゃ、やっぱ阿木さんが出るんすか?」
「キヨリは出さないよ。後の事は、沢村に任せたいんだけどな」
……誰でもいい。
俺を抱きしめてくれ。
ヤバかった。目の前で聞いていたら、うっかり泣いてしまったかも。
気のせいかもしれないけれど、少しだけ、阿木が悔しそうに口元を歪めたように見えて……これも、ある種のヤキモチかもしれない。だからなのか、
「だけど彼は〝あくまでも公認は右川で〟って言うわよ。絶対に」
やけにムキになっているように聞こえる。
「日本も、あの国も、アメリカが何を言っても駄目って事」
阿木は、永田会長の肩をポンと叩いて煙に巻いた。
また気のせいかもしれないが……阿木は残念がるその態度の裏で、1人にこれだけ振り回される周辺って、なんて腑抜け!と、呆れているようにも見える。
右川が桐生を急き立てて、「んじゃ、あたし次行くので♪」と立ち上がった。
「次は華道部のプチ・ブーケ。200円だよ」
「は?またオレが出すの?」
「大丈夫♪あんたも見たら欲しくなるから」
随分、精力的にあちこちを回るらしい。そんな2人の言い合いは、廊下に出てからも聞こえる。2人が遠のいて声が聞こえてこなくなった頃を見計らって、俺はカーテンから飛び出した。
途端に、どこか同情的な目で、そこら辺から眺められてしまう。
「沢村くんもやってもらえば?」
阿木の……それはどういう種類の慰めなのか。「それじゃ」と、3年教室を出て行く阿木と入れ違うように、俺は成り行き上、強引に椅子に座らされて、禍々しいカードを握らされた。
「これは単なる演出だから」
つまり、持たされた〝死神〟のカードに意味は無いと?

〝心と体。どちらも苦しい。
気持ちと行動が、逆だから。
それもまた、裏返す。
運命の女神、あらわるまで待て〟

「実は、沢村は生徒会をやりたくないとか」
永田会長が呟いた。
シーンと静まり返った中で、その呟きは、やけに実感を持って響く。俺はちょうど二千円を払いながら(実は、お金を払いたくないっていう感じですが)、
「イヤ、そんな事はないですよ」
勝手に決めてもらっても……だけど現実、俺は右川に投げている。
〝気持ちと行動が逆〟と言われれば、それはその通りのような気もした。
「運命の女神って、何ですか。決まり文句ですか?」と、俺は話をそらした。
永田さんは、きっと気付いている。チラと視線を外して、「そうみたいだな。誰にも同じ事言ってるし。な?」と隣の男子に同意を求めた。
こうやって、逃がしてくれる辺りが、阿木とは違う。済まないと思う反面、助かった気でもいた。今はまだ少し時間が欲しいから。
「何だかこいつら、可愛くなァーいー」
占者女子は、ふんぞり返ってパッと派手な扇子(?)を開くと、永田会長に向けて、ひらひらと振った。
「愉快にやってらんないよ。沢村なんて、女子にフラれたばかりで。な?」
永田会長と一緒になって、周りも笑う。そこを勝手に決めてもらっても。
そこだけを離れた場所から聞いていた先輩男子が、
「え?フラれちゃったの、おまえ」
それを合図に、「デカいのに?」「そしてその態度のデカさゆえにフラれ」「いやー、この程度の下半身なら」「見たんか?」「現代人に失われがちな想像力で逞しく世の中を渡っており」「つまり単なる勘違い」と次々と、いい展開を見せられる。ここでも微妙にディスられてませんか、俺。
「ちょっと脱いで見せろよ」と、そこで武闘派に目を付けられてしまった。
「そうだよ。脱ぎな。この2000円いらない」と、占い女子から2000円を投げ返されて、俺はまるで〝アラブの愛人から施しを受ける乞食〟の如く、あしらわれる。それを永田会長も愉快そうに眺めている。
3年男子がスルスルと3人近寄ってきて、それが束になって一気に襲ってくるような錯覚に囚われて……コイツら、本気だ。
運動系は、冗談が通じない。或いは、最後の最後まで冗談で突き通す。
案の定、上半身、ほとんど脱がされそうになりながら、俺は逃げ出した。

< 16 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop