元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
八時間も揺れる船の上で立ちっぱなしで指揮を続けていたんだもの。疲れて当たり前だ。
「皆の者、よくやってくれた。我が軍の勝利だ」
そう言う声にも、疲れがにじんでいた。兵士たちも喜びながら、甲板に座り込んだ。
今の私たちに必要なのは、勝利の余韻ではなく、単なる休息らしい。
私たちは一番近くにある帝国領土の島に船を係留させることにした。あとから来た味方と補給船から補給物資を受け取り、艦体を編成しなおしたあとに再出航することになるだろう。
「とにかく休むぞ、ルカ。お前も来い」
疲れた頭と体を抱えつつ、それでも戦闘後の事務処理をしようとしていた私を呼び留め、レオンハルト様は肩を組んで宿屋へと連行していく。
モンテルカストのように公式の補給基地とはなっていないこじんまりした島は、大勢の兵士が泊まれる宿屋も、綺麗なお姉さんがお酌してくれるお店もないらしい。
ほとんどの兵士は船内で倒れ込むように休んでいると、がっかりした顔のライナーさんが教えてくれた。
幹部と階級が上の者だけが泊まることになった宿屋で、私たちはぐっすりと眠った。
悪夢を見るのは、明日以降にしよう。そう決めたわけではないけど、肉体的疲労が心的負荷を上回ったのか、私もレオンハルト様も、うなされることはなかった。