元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
出会った時から、ずっと好きだった。
一緒にいるようになって、もっと好きになった。
過去と決別することができるなら、私はこの名前を捨ててもいい。クローゼ家と縁を切ったって構わない。
正式な妻になれないのなら、死んだことにして地下牢に閉じ込めてくれればいい。それでも、あなたが傍にいてくれるなら……。
「お前、いつからそんな可愛いことを言えるようになったんだ?」
レオンハルト様の声が聞こえる。大きな手が、頭の上に置かれた。
「安心しろ。絶対に迎えにくる。その作戦を考えてくる」
「作戦……」
といっても、今私たちの前に立ちはだかるのは敵の軍艦じゃない。レオンハルト様お得意の戦略や戦術ではどうにもならない。
「そう不安そうな顔をするなって。お前の恋人を信じなさい」
困ったように微笑み、自らの指で私の涙をぬぐうレオンハルト様。その手の温かさを感じたら、少しずつ落ち着いてきた。
「はい……」
なんとかうなずくと、ご褒美なのか、ごく軽いキスが与えられた。
こんなのじゃ足りない。もっと強く抱きしめて、脳の芯まで溶けてしまいそうな熱いキスが欲しい。
だけど、いつ誰が来るかわからない廊下ではこれが精一杯。
私たちは名残を惜しみながら、ひとまず別れることにした。繋いだ手を完全に放すまで、莫大な精神的努力が必要だった。