元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
──一週間後。
父上に強制的に仕事を休まされた上、急に陸軍に戻れという辞令を受け取った私は、憤慨しながら元の部署で後方勤務に当たっていた。
辞令は軍の人事部から出されるものだけど、父上の発言の影響力が働いていることは明白。
どうやっても私をレオンハルト様から引き離し、男性として孤独な人生を歩ませる気らしい父は、通勤中と家にいる間、私に護衛をつけた。護衛という名の監視役だ。
こうなればあたふたするだけ労力を削るだけなので、私は父上に従順なふりをしていた。
時期が来れば、レオンハルト様が迎えに来てくれる。それまであきらめたりしないんだから。
経理の仕事を終えてひと息ついたところで、執務室のドアが叩かれた。
「クローゼ中佐、客人です」
先の戦争での副官としての働きを評価され、中佐に昇進した私を若い下士官が呼びに来た。
ちょうど終業時間だ。同じ執務室で机を並べて働く人たちに挨拶し、ドアの外へ出る。
さて、客人とはいったい誰だろう。下士官が案内してくれた応接室に行くと、そこにいたのは……。
「クリストフ。どうしたの」
船を降りた時から音信不通……というか存在すら忘れかけていたクリストフが、ソファに座って紅茶をすすっていた。